『君の場所と僕のお父さん』 「(ご、ご主人〜……なんでこんな所入るんだよぅ……おいら怖いよぅ……)」 「仕方ないだろ、一本道なんだから。」 南へと続く道は、狭い洞窟へと続いていました。 まるで人が先に進むことを拒んでいるかのような、暗い洞窟。 引き返した方が身のためだという本能を押し切り、ペンライト片手に進みます。 冷たい風が頬を撫で、帰れ帰れと言っているように思えます。 「(あぁあぁあぁぁ……何かの唸り声が聞こえるよぅ……)」 「風の音だろ。きょろきょろしてないで、ちゃんと付いて来いよ。」 とは言うものの、不穏な空気は少年も感じ取ってました。 今にも闇の向こうから何かが飛びだしてきそうな、嫌な気配。 「(あ、ハンバーガー見つけたぜぃ!)」 脳天気な声が、少年の思考を止めました。溜息混じりに振り返ります。 「こんなところにハンバーガーなんてあるわけ……」 モンキーが手にしているのは、紛れもなくハンバーガー。 おいしそうなチーズの匂いがします。 「それ……どこにあったんだよ?」 「(この中。)」 モンキーはプレゼントの箱を指さしました。 「……。」 少年はまた頭痛を覚えました。 「百歩譲って、さっきの人間が作ったダンジョンにプレゼントがあったのはイイ。 でも……何で天然の洞窟にプレゼント?誰の、誰からのプレゼント? 不条理だ……こんな不条理有って良いはずがな……もが。」 「(ご主人は難しく考えすぎなんだよぅ。旨いんだからそれでいいだろぉ?)」 モンキーにハンバーガーを口の押し込まれ、少年は沈黙しました。 ジューシーなお肉の味が、口に広がっていきます。 (そうだな……。さっき深く考えないことに決めたんだっけ……) 少年はぱしぱしとおでこを叩き、滾るツッコミ心を頭の中に押し込めました。 その彼の前を通過したのは―― ――あるくキノコでした。 「…………。」 キノコはちょろちょろと歩き回った後、少年を発見すると向かってくるではありませんか。 「な……」 少年はショックガンを構えながら俯き、わなわなと震えました。そして、 「なんでキノコが歩く必要がある!!!!!?」 少年の気苦労は、まだまだ絶えそうにありません。 「キノコが歩く不条理に比べたら……ワニが二足歩行してるくらいなんだぁぁああ!!!」 よく分からない雄叫びを上げながら、少年は「つよいわに」にショックガンを放ちました。 見事命中。つよいわにはフラフラと逃げていきます。 少年は肩で息をし、蹌踉めいてしゃがみ込んでしまいました。 流石は「つよいわに」というだけ有って、尻尾振り回し攻撃は、なかなか痛かったのです。 「(だ、大丈夫かご主人!食べて元気だしてくれよぅ!)」 一応気を遣ってるつもりなのか、モンキーがクッキーを押し込んできます。 正直喉が渇いていたので乾燥した物は避けたいところでしたが、飲まざるを得ません。 少年は大きく一つ息をつき、辺りを見渡しました。 入って直ぐの頃は気配だけだったのに、わにやらネズミやら、そしてキノコやら、 次から次へと敵が襲ってきます。 ――何かに、操られるように。何かを、守っているかのように。 元々喧嘩なんてしない方でしたから、かなり厳しい状況です。 途中で見つけた「やすものの腕輪」をはめたことで、何となく痛みは和らぎましたが、 それでも肩にもたれかかるような疲労感が拭えません。 (早く……此処を出るに越したことはないな……。 こんな所で、足止めを喰らってる場合じゃない。) 少年には、待っている人が居るのですから。 さらに奥へと進んでいくと、目の前は岩壁で遮られていました。 さっきも似たような箇所がありましたが、誰が繋いだのか、ロープが下がっており、 上れるようになっていました。今度もロープが用意されていました。 しかし――悪戯か、動物達の仕業か。ロープは岩壁の上に引っ掛かっています。 「まいったな……」 少年は岩壁を見上げて呟きました。手を掛けられそうな所もありません。 これは完全な行き止まりです。……と、溜息を付きかけたときでした。 「(お兄さん……。あっしの存在を〜、お忘れじゃあねぇですかい?)」 振り返ると、猫じゃらしを咥えて岩に片足を乗せた、モンキーの姿がありました。 「何で一人称が変わってるんだよ……。」 少年の呟きを無視し、モンキーはフレッシュニヒルに微笑みました。 「(あっしに掛かればこんな壁の一つや二つ……ちょちょいのぴーでさぁ。)」 「ぴぃ……?」 モンキーは素早く少年の鞄からフーセンガムを奪い取り、一枚膨らませました。 ぷぅわ。 フーセンでモンキーはぷわぷわと浮かび、岩壁の上に着地しました。 そして、するするとロープを下ろすと少年の元へ戻り、ふふんと鼻で笑いました。 「(ざっとこんなもんでさぁ。)」 「………。さっさと進むか。」 少年はよじよじとロープを上り始めました。モンキーも慌てて追いかけます。 「(なんだよぅご主人、ちっとくらい誉めてくれたっていいだろぉ? クールってのもいいけどよぉ、あんまり心がせまいとモテないぜぃ。)」 少年の手がぴたりと止まりました。怒ったのでしょうか。モンキーは首を竦めます。 「あ……ありがと……。」 ポカンとするモンキー。少年は振り返ることなく、再びロープを上ります。 「(は、はじめて誉められた……。ご、ご主人!待って!今のもう一回!録音する!)」 「あ〜五月蠅い五月蠅い!黙らないと置いていくからな!」 ジタバタ暴れる二人に合わせ、ロープは大きくゆさゆさ揺れました。 ロープを上りきり、何匹めかの歩くキノコを倒したときでした。 少年の目に、不思議な物が映りました。きらきらと輝く、星のような何か。 その向こうには洞窟の奥へと続く道が見えるのですが、 ――そこから、何か大きな力の流れを感じます。 「なんだろう……?」 少年は近寄ってみました。星は相変わらずきらきらと輝いています。 ごくりと唾を飲み込み、そっと手を差し出しました。 ばちっ!静電気のような、軽い痺れが走りました。 コレが何かは分かりませんが、どうやら此処を通してくれる気はないようです。 「この場所の……」 (……!) 突然、頭の中に、言葉が流れ込んできました。耳に聞こえるのではない。 夢で聞いたあの声のように、直接頭に響く言葉。 「ネス以外の者に、この場所のパワーを引き出すことは出来ない……」 (ネス……?) 少年はじっと目の前の輝きを見つめました。火でも電気でもない、不思議な光。 ネス、という名前には聞き覚えがありました。 ――わたしはポーラ。そしてもうひとり……ネス。 「ネスと、ポーラ……。」 少年は真っ直ぐに、南を見つめました。 明るい光りが見えました。やっと、洞窟の出口のようです。 「(はぁ〜、久々の娑婆の空気はうまいぜぃ!)」 「僕は囚人かよ。」 悪態を付きつつ、二人はそろってう〜んと伸びをしました。 太陽が、湿った空気を取り去ってくれる気がします。と、その時、 「キャッキャキャキャ!」 モンキーが久々にサルらしい声で騒ぎました。目が何かに釘付けになっています。 視線の方に目をやれば――リボンを付けサルが居ました。 「えーっと……」 何と言ってイイか分からず、困惑する少年。 リボンを付けているのだから、おそらく女の子なのでしょう。 「(好きなタイプの子だ!ナンパしちゃおう!)」 「……は?」 モンキーは、今まで見たこともないような俊敏な動きで駆け出しました。。 「こ、こら!紳士道に外れたことをするんじゃない!」 止めようとする少年の手をかいくぐり、モンキーは女の子サルへ直行します。 「(ちょ、なんなのよ、このチャラ男はぁ!)」 女の子サルは酷く気分を害したようで、するすると逃げ出しました。 「(待ってよぉ!おいらの女神〜!)」 モンキー二匹は、雪の森の彼方へ、あっという間に見えなくなりました。 「サルが……去る……。」 後には、虚しく駄洒落る少年が残されました。 ![]() 一人、南に向かう少年。雪の冷たさが、一際強く伝わる気がします。 (なんか、寂しいとか言うより、呆れて言葉も出ない……) 少年は眼鏡の曇りをきゅっきゅと拭き、道を進んでゆきました。 「あ〜、オホン。少年。」 不意に、声が掛けられました。見知らぬおじさんが、手招きしています。 「なんですか……?」 おじさんはもう一度咳払いしてから言いました。 「貴方はお見受けしたところ、無知で無教養な単なる餓鬼らしいので敢えて教えておくが、 この石の並び方は、所謂一つのストーンヘンジというものですぞ!」 (ストーンヘンジ……?) 少年はぼんやりと目を向けました。確かに、大きな岩が何かを守るように置かれています。 風化の具合から言って、かなり古いものでしょう。でも…… 「ふっ……今更この程度の不思議なんて……」 少年は鼻で笑いました。今の少年には、大きい石くらいなんのこともないのです。 「な、なんと!ストーンヘンジの価値がわからないのですか!? テレビや雑誌でおなじみの!UFOなんかもよく飛んで来るという、あの…… ストーンヘンジなんですぞ!?」 「UFOねぇ……」 少年は胡散臭げに岩の群れを見つめました。 言われてみれば、何となく異様な雰囲気があります。 何か、大きな事をおこしそうな、そんな気が。 「でも僕、今急いでるんで。ご忠告感謝しますよ。」 「あ、こ、こら!待ちなさい少年!他にもストーンヘンジの情報が…… というか相手してくれ!久々の話し相手ぇ〜」 縋るように手を伸ばすおじさんを尻目に、少年は南へと向かいました。 切なげなおじさんの生活に何があったのか知りませんが、今は急がねばなりません。 「UFO……」 なんとなく引っ掛かるその言葉。もう一度呟いてから、少年は顔を上げました。 「あった。」 辿り着いたのは一軒の家……いや、「家」というには、あまりに変な恰好の建物。 入り口にはデカデカと「LAVO」と書かれています。 (確かに、この人に頼むのが一番賢明なんだろうけど……) 少年は一つ大きな溜息を付き、その扉を開きました。 蛍光灯の真っ白い光。微かな薬品の匂い、オイルの匂い。小さく聞こえる電子音。 そこは研究室の名に相応しい、異様な雰囲気が漂っていました。 少年は慎重に、一歩一歩進んでいきます。 ミィンミィンミィンミィン! (っ!!!!!) 突如飛んできた大きな音に、少年は首を竦めました。 傍らの機械が、脅すように音を立てています。 暫くすると音は止まり、ふしゅう〜と何かが抜ける音がしました。 充電か何かをしていたようです。少年はその機械を覗き込みました。 隅っこに小さく、説明が書かれています。 「インスタントエナジーマシン・これは一瞬にして、 一泊宿泊したくらいの気力を回復するマシーンである」 (……。随分具体的だな。) 少年は興味本位でスイッチを入れてみました。 カチッ。ズゴォオオオオオム! (……!!!!????) 掃除機の口みたいなものが、此方に向けられました。もの凄い音がします。 何かが凄い勢いで抜き取られる感覚。恐怖で顔が引きつりました。 音が止むと、あとは何事もなかったように、機械は静かになりました。 肩をコキコキ動かしてみると、確かに重みが薄れた気がします。 眠気もすっきり収まりました。 「す、凄い機械だな……」 凄いけど、あんまりもう一回試したいとは思いませんでした。 「誰かいるのかね?」 大きな音が聞こえたのか、ひょこりと顔を出した人物がありました。 まぁるい顔に白い髪。まぁるい眼鏡に白い髭。 何となくぽやぁ〜んとしたその顔に、少年はタッシーを思い出しました。 「お久しぶりです。」 しかし少年は無表情に、研究所の主であるその人物 ――アンドーナッツ博士に挨拶しました。 「ダンジョン職人のブリックロードさんから紹介された方だね。」 アンドーナッツ博士はにこにこと握手を求めてきました。 少年はやんわりとそれを交わし、博士の顔を見ました。 「本気で、忘れているんですか……?」 アンドーナッツ博士は、小さな目をしぱしぱさせました。 「?それだけじゃない……と?」 (駄目だ……この人、本気で言ってるよ……) 少年は溜息を付きました。 「自分の息子を忘れるなんて、流石ですね、博士。」 アンドーナッツ博士は、小さな目をさらにしぱぱぱと瞬かせました。 「むすこ?息子ってあの……あ、そうか!ジェフかぁ〜!」 全く悪びれる様子のないその言葉に、少年は全気力が抜けていくのを感じました。 「10年ぶりくらいだな。お互い良く生きていたもんだ〜」 アンドーナッツ博士は、少年の頭をぽすぽすと撫でました。 (10年って……) 本当はもう少し最近に会っているのですが、少年は訂正するのも面倒でした。 「よく生きていたもんだ」。そう言うのも不思議がないくらい、 会っていないのは事実なのですから。 「ほぅほぅ、眼鏡が似合うな〜」 アンドーナッツ博士はスーパーで野菜を選ぶときのように、 少年の前を向かせたり後ろを向かせたり、鼻や耳の穴を覗き込んだりして、 その健康さに満足げに微笑むと、眼鏡をちょっと取り上げて、少年の目をじっと見ました。 「か、返してください!」 少年は眼鏡を引ったくって掛け直しました。どうもペースを飲まれています。 アンドーナッツ博士は腕組みをして、ふむふむと頷きました。 「ドーナッツが食べたいか?」 「……はい?」 唐突な質問です。 「ま、まぁどちらかと言えば食べたいですけど……」 「訊いてみただけだ。私も食べたい。」 「………。」 「ストーンヘンジはもう調べてみたか?」 「いいえ。まだです。」 「そうか。一応訊いてみたんだ。」 沈黙。やがて沈黙に耐えきれなくなったのか、 アンドーナッツ博士は、スタスタと研究所の奥へ歩いていきました。 (な、何なんだこの人は……) 理解できないとは思っていましたが、ここまで不可解な人だとは思いませんでした。 「ええと、何かあったかな〜?おぉ、もずくがあったぞ!食べるかね?」 「結構です。」 研究所の奥で、どうやら博士は食べ物を探しているようです。 お客さんへの気遣いなのでしょう。少年は丁重にお断りし、近くの椅子に腰掛けました。 「もずくは嫌いか?う〜む……。お!これがいい……わ!酸っぱい! チョコレートなのに酸っぱい匂いが!?これは整理しないといかんなぁ〜……」 沈黙。研究所には博士が冷蔵庫をごそごそやる音だけが響きます。 (き、気まずい……) 少年は辺りを見渡しました。机の上に、電話が置いてあります。 少年は縋るような気持ちで受話器を取りました。 「はいはい、ガウスの研究室……なんだジェフか。」 「先輩〜っ!」 「な、なんだ?どうした?何かあったのか?」 少年は風船で浮くサルや恐竜の話、プレゼントに写真屋に謎の光、 そして自分の父親。今までにあった様々な不条理を、先輩にぶちまけました。 ガウス先輩はふむふむと聞いてくれます。「なるほど。」「そりゃ不思議だ。」という 当然の相槌がなんと嬉しいことか。 少年は「ですよね!おかしいですよね!?」を何度も繰り返します。 「本当は最初に電話したときも言いたかったんですけど……トニーが。」 「ああ、そりゃ悪かったな。どうだ?全部言ってすっきりしたか?」 「はい、そりゃあもう……」 ガウス先輩のからからという明るい笑い声が聞こえました。 「そいつは良かった。お前はちょっと自信に欠ける弱腰な所があるし 心配していたんだが……何にせよ、楽しそうでほっとしたよ。」 「楽しくありません!」 少年は受話器に噛みつきそうな勢いで叫びました。先輩はまたからからと笑います。 「それだけ元気がありゃ大丈夫だろ。お?気配を察して駆けてくる足音がするな。」 「気配……。」 誰がやって来たのか、尋ねるまでもないでしょう。 電話の気配まで察するとは、侮れない友人です。 「また騒がれても何だしな。じゃあジェフ、また電話しろよ?」 がちゃん。ツーツーツー。 少年はふぅと溜息を付きました。と、同時に、背後に感じた気配に振り向きます。 「さて、お茶にしようか。」 アンドーナッツ博士は、お盆の上のお茶とビスケットを掲げて見せました。 ![]() さくさくさくさく…… 研究所には、相変わらずの沈黙と、ビスケットを食べる音だけが響きます。 「あー……ところで、どうしてここに?」 沈黙を破り、アンドーナッツ博士が漸く声を上げました。 少年は夢で聞こえた声のことだけ、かいつまんで話しました。 アンドーナッツ博士は興味深げにその話を聞き、大きく頷きました。 「ふむふむ。そのポーラとかいう少女は、無意識のうちに私がここにいることを あてにしていたに違いない。なんとかしてみよう。」 とても信じられる話ではないだろうに。こういう柔軟性には、少年も素直に感心しました。 「私が研究しているのは、時空間の任意の二点を繋げてしまうスペーストンネルなのだが ……それはまだ未完成なのだ。ちょっと古いけど、スカイウォーカーというマシンを 君にあげよう。これに乗って相手からの呼びかけを聞いていれば、目的地に着くはずだ。」 少年はアンドーナッツ博士に促されるまま、研究所の奥へやって来ました。 そこには、胴体も窓もまるっこくて、なんとも危なっかしい雰囲気のマシンがありました。 人がUFOと言われて、単純にイメージするもの、そのものでした。 「どうだ恰好イイだろう。乗りなさい。」 「……。」 少年は訝しげに、スカイウォーカーに触りました。多分、鉄で出来ています。 「一体どういうメカニズムで飛ぶんですか…?」 少年は博士に質問しました。アンドーナッツ博士はう〜むと唸り、 「なんか……雰囲気だ。」 「やっぱり結構です。」 くるりと方向を反転した少年の背を、博士は宥めるように押し戻します。 「いいからいいから、遠慮するな。」 半ば押し込まれるように、少年はスカイウォーカーに乗り込みました。 スカイウォーカーの中には、何処かで見たような「赤・青・黄・緑」のボタンがあり、 赤の横にだけ「とぶ」と書いてあります。何とも分かりやすい操作盤です。 「……。」 少年は不安で顔をゆがめながらも、そっとそのボタンを押しました。 るるるるるる♪よぉ〜んよぉ〜んおぉ〜〜〜ん 「な……!?」 危なっかしいながらも、ふよふよを浮かび上がるスカイウォーカー。 「10年以内にまた会おう!」 博士の言葉を合図にするように、スカイウォーカーは空へ舞い上がりました。 「ちょ、ま、心の準備があああああぁぁぁぁぁぁ……。」 少年の悲鳴も、空の彼方へと消えていきました。 一体どういうシステムなのか。 プロペラも翼もないスカイウォーカーは、順調に雲の隙間を抜けていきます。 雲の上は当然ながら快晴。太陽に手が届きそうです。 そんな美しい光景の中、少年は恐る恐る窓の外を覗き込みました。 「た、高い……」 何時落ちても不思議はないのだから、少年が不安に思うのも無理もありません。 それにしても、スカイウォーカーはさっきから同じ所をぐるぐる回っている気がします。 雲の違いはよく分からないので気のせいかも知れませんが…… (いや……。) 少年はアンドーナッツ博士の言葉を思い出しました。 ――相手からの呼びかけを聞いていれば 博士は確かにそう言いました。 「テレパシーに反応するってことか?」 少年はテレパシーを送ろうなどと思ったことはありません。 どうしたものかと思い、とりあえず拳を握って、ふんぬっと力を込めてみました。 息を止め、暫くそのまま力を入れ続けて………どはぁっと息を吐きました。 「阿呆らし……」 腹筋が疲れただけで、頭の中に何かが聞こえる気配もありません。 しかしその時、スカイウォーカーはぐぅんと高度を下げました。 少年は慌てて壁に手をついてバランスを取ります。 窓の外には大都会が見えていました。高いビル群。沢山の人。車。 見慣れたウィンターズとは全く違った街並み。 「こんな所に……いるのか?」 そう思っていると、スカイウォーカーは再びぐぅんと高度を上げました。 「な、なんだよ。違うのかよ!」 当然ながら少年の悪態に動じることもなく、スカイウォーカーはふよふよ飛び続けます。 そしてまた、ぐぅんと高度を下げました。眼下に広がっていたのは、広大な砂漠。 時折、干からびた骨のようなものが見えます。 「げ……。」 少年が顔を顰めると、スカイウォーカーは再び高度を上げました。 暫くたつと、またぐぅんと低くなります。しかし今度窓の外に見えたのは、薄暗い街。 さっきの賑やかな大都会とは、似ても似つきません。 「これは、いよいよ怪しいな。」 昼間だというのにこの暗さ。何やら怪しげな生き物の姿もちらほら。 何より眼下に広がる広大すぎる墓地が、不気味な迫力を醸しています。 ピピッ! スカイウォーカーが何かに反応し、音を立てました。 「見つけたのか!?」 言葉を返すように、スカイウォーカーは再びピピ!と音を立てました。 墓地の辺りをぐるぐると旋回し、そして―― ――ぐぅんと高度を下げました。 「!!!!!!!!!???」 その急激な降下は、「落下」と言った方が早いものでした。 ![]() つづき→ |