『ホイホイと食後のマナー』 「へ?は?ほ?おぉ!?」 突然なり出した音に驚き、少年はじゅしんでんわをお手玉しました。 ジェフが呆れ顔で通話ボタンを押し、少年に渡します。 「ありがと。もしもし?」 「もしもし(もちゃもちゃ)アップルキッドです〜(もちゃもちゃ)。」 電話の向こうからは、間の抜けた声が聞こえてきました。 「………。何か食べながら話すの止めてよ……。」 「えぇ?(ごくん)何も食べてないですよぉ〜。……兎に角ですね、(ばりばり) へんなものが出来たので、大事なスポンサーに報告しようと思ったんです。(げっぷ)」 「大事なスポンサーと話すのに、食事はやめないの……?」 「だから何も食べてないですってば。まぁ役に立つかは分からないんですけど…… 『ゾンビホイホイ』って言いましてね」 少年は耳を疑いました。その表情に、会話の聞こえないポーラとジェフが首を傾げます。 「これを使うと、ゾンビが集まるマシンです。このゾンビホイホイは、テントのような 場所の真ん中に置きます。テントは何処かにありますよね?」 少年は恐怖の面持ちで、今し方通り過ぎた「ゾンビ対策委員会」のテントを見ました。 「置いておけば面白いようにゾンビ共がくっつきますから。一杯取ってください。 地上にいるゾンビは、多分これで全部退治できると思います。 さっきマッハピザの人に頼んだので、近い内に着くと思います。 ゾンビなんて見たこと無いけど、もし本当にいるんだとしたら…… このマシンはきっと使えるはずです。また何かあったら電話します。それじゃ。」 「……。」 「どうしたのよネス。」 油断無く周囲を見渡す少年を、ポーラは怪訝な顔で見ました。 (絶対……監視されてる。) あまりにタイムリーなアップルキッドの発明品は、マッハピザの宅配屋さんの手により 着実に少年達の元へ向かっていました。 「そんなご都合主義があってたまるかぁああああああ!!!!!!」 ジェフは頭を抱え、此の世の終わりのような雄叫びを上げました。 「おかしい……どう考えてもおかしい。何故……何故ゾンビの存在にすら確証を 持てない人間がそんなものを発明できる!?見たこともない物をどうやって 引き寄せることが出来る!?大体何故今それが出来上がる!?テレパシーだ…… そいつは絶対に僕達の思考を覗いているに違いない!テントが近くにあることまで 知っているなんて……その発明家とやらを今すぐ此処につれてこい!尋問してやる!」 ジェフは感じた不条理をを叫ばないと、気が済まない達のようです。 「ピザの宅配業者がそんな配送を請け負うはずもない!なのに……何故今此処に届く!?」 「もういいよ、深く考えないことにしよう。」 少年はマッハピザの宅配屋さんから、『ゾンビホイホイ』を受け取りつつ言いました。 ジェフが疑問点を全て述べてくれるため、少年は悟りの境地のような顔をしています。 マッハピザのおじさんは、落ち着き無くジタジタしながら言いました。 「いや〜、ピザの宅配してたらとんでもないこと頼まれちまってさ。 スリーク辺りを彷徨いてるネスって奴にこれを渡してくれって……」 「だから何でスリークにいることが分かるんだよ!」 「ジェフ、ちょっと五月蠅い〜。」 ポーラは耳をくにくに揉みながら嫌そうな顔をします。 「見つかりゃしないよ。アンタがネスだって事にしてさ、これを渡して帰るわ! アンタがネスだ!答えなくてイイ!俺がそう決めたんだ!じゃ、サイナラー!」 マッハピザのおじさんは、逃げるようにぱぴゅ〜んと走り去りました。 「なんていうかさ……人間の第六感って、凄いよね。」 「そんな言葉でこの現象を片付けるなよ……。」 ジェフは力尽きたように地面にへたり込みました。 「『ゾンビホイホイ』ですって?」 ゾンビ対策委員会の面々は、揃って目を丸くしました。当たり前です。 「『ゾンビホイホイ』でも何でも効き目があるんだったら、今すぐにでも使ってみたいわ。」 お許しが出ました。少年達は早速、テントの床にゾンビホイホイを設置します。 「何処がマシンなんだよ……。」 ねぱねぱした液体を撒きながら、ジェフがぽつりと呟きます。 「一杯獲れるかな?」 「ネス……カブトムシ獲るために蜂蜜塗ってるわけじゃないのよ? きらきらした顔しないの!」 そんな少年に、奥さんと子供を置いてきたと言うおじさんがすすすと寄ってきました。 「何をやろうと自由だが、私の命だけは守ってくれ。」 「………。」 ねっちょり。 「わぁああああ!!!!」 「御免なさい、手が滑りました。」 ゾンビホイホイ液を浴び、おじさんの頭部は目映い輝きを放ちました。 「ゾ……ゾ……ゾ〜ンビ来い……こっちの餌は美味しいぞ〜……♪ふふふ……」 「ポーラ……。頼むから瞳孔開いて歌うの止めてくれよ……」 ジェフの言葉に、ポーラはにやりと口を釣り上げます。 「雰囲気あるでしょ?」 「夢見そうだよ……。」 少年達はホテルにやって来ました。ゾンビホイホイの効き目が現れるまでには 一晩はかかります。果報は寝て待て。少年は部屋の戸を開きました。 「………。二つだね。」 「見れば分かる。」 部屋に置かれていたベッドの数。3人なのに、2個しかありません。 「まぁ子供だからってことなんだろうけど……」 少年とジェフはポーラを振り返りました。にんまり笑顔が其処にあります。 「知ってると思うけど、私、女の子なのよね〜♪」 「「ですよね〜……」」 少年達は、それ以上何も言えませんでした。 「頼むからもう少し端に行ってくれよ!」 「僕、左右対称で仰向けじゃないと眠れないんだよ〜」 「人の都合も考えろよな、狭いんだから!」 「はぁ……。出会ったばっかりで、まさか枕を共にすることになるとはな〜……」 「誤解を呼ぶ言い方は止めろ!!!」 「ごかいって……?」 「深く考えなくてイイ!」 「ジェフこそ、人の足踏まないで……あれ?どちら様?」 「はぁ!?」 「え?あぁ、ジェフか。眼鏡外してるから分からなかったよ。」 「僕の判断基準は眼鏡だけかよ!」 「うるっすわぁい!」 もう一つのベッドからヘアブラシが飛んできて、少年の頭にこぉんとヒットしました。 HPが1減りました。一人で悠々と寝ていたポーラは、いつまでも同じベッドで 寝ることに文句たらたらの男子二人を、腕組みして叱りとばします。 「そんなに嫌なら寝なくて結構!野宿でもしてなさい!」 「「ご、ごめんなさい……」」 「一体何時だと思ってるのよ!外を見てみなさい、外を……!!!!?」 凍り付くポーラ。少年達は首を傾げ、窓に駆け寄りました。 ずず……ずずず…… がざ……ぎぎぃ…… あぁぁ……うぅぅ…… 何かを引き摺るような音。乾いた皮膚の擦れる音。苦しそうな呻き声。 ゾンビの群れが、ゾンビ対策委員会本部のテントを目指して、集まっていくのが見えます。 「おぉ〜!」 「有り得ない……」 ホラー映画も泣いて逃げ出すような光景を、少年達はぽかんと眺めていました。 「ゾンビを一杯捕まえたわ!」 ゾンビ対策委員会の人たちは、既にテントの前に集まっていました。 「やったぞ!テントの中を見たかい!?思い知ったか、ゾンビ共めぇええ!!!」 少年達は顔を見合わせ、テントの中に入ってみました。 「………っ!」 驚きは言葉になりませんでした。ポーラが少年のリュックにぎゅっとしがみつきます。 テントの中は……ゾンビだらけでした。 一体どんなシステムになっているのか、みんな綺麗に仰向けで、 ジタジタと暴れていますが、一向に剥がれそうにありません。 「は、剥がれて襲いかかってこないかな……。他人はどうなってもいいけど、 俺のことは心配だろ?な?」 光沢おじさんがなんか言っていますが、少年はとりあえず捨て置きました。 ゾンビの一人に近寄って、話しかけてみます。 「あのぉ……?」 返事がありません。少年は別のゾンビに話しかけてみました。 「あの……ゾンビ……さん?」 「死んでも恨むぞ!」 「!!!」 口をしゃあっと開けて、脅かしをかけてきました。少年は一瞬恐れ戦いた後 「もう……死んでるよね?」 「いや……まぁそうなんだけどさ……」 ゾンビはしゅんと項垂れました。 「無理に逃げようとすると、身体がバラバラになっちゃうんだよね、ゾンビだから。」 別のゾンビが言いました。 「こんなことなら、もう死んでもイイ……って、あ、僕もう死んでるんだっけ?」 また別のゾンビが言いました。 「なんというか……妙に人間くさいゾンビだな。」 ジェフがぽつりと呟きました。 「こんなに効くんだったら、美人ホイホイとかもあればいいのになぁ〜」 見学に来ていたお兄さんが、呑気に言うのも聞こえます。 少年はテントを後にしました。去り際に「ゾンビの敵!鬼!悪魔!」という ゾンビの叫び声が聞こえました。 「こういう言い方をすると誤解をされそうだけど、ゾンビもなんだか可哀想ね。」 対策委員会の女の人が言いました。少年は何も答えませんでした。 「ゾンビも勝手に動かされて居るんだもの。迷惑よね。 こんな事をしている大親分とやら、やっつけてやりましょう!ね♪」 何かを悟ってか、努めて明るく声を掛けるポーラに、少年は笑顔で頷きました。 ![]() 抜け穴の見張りゾンビは、やはり居なくなっていました。 梯子を下り、少年達は地下の抜け道へと降りていきます。 薄暗い通路。ひゅうひゅうという隙間風の音。冷たい空気。 「何か出そうな雰囲気だな……。」 「や、止めてよね、そういうこと言うの。」 「ポーラ、もう慣れたんじゃなかったの?」 「戦うことに慣れたって、バァっと脅かされるのは怖いの!」 「バァ〜ッ!」 「いやぁああああああ!!!!」 ぱいんっ。 ポーラの一撃は、バアっと出てきたゾンビの頭に命中しました。 ゾンビは大分クラクラ来ているようです。 「ゾンビは全部捕まえたんじゃなかったのぉおおお!!!」 「僕に怒られても……。アップルキッドは『地上にいるゾンビ』って言ってたよ。 ここ、地下だもん。」 「なによその屁理屈!あぁっもう!」 ポーラは悪態を付きながら両手を広げました。 抜け穴にはまだ幾人かのゾンビや幽霊が行く手を阻んでいました。 バットで、フライパンで、ショックガンで、超能力でやっつけ、さらに奥へ奥へ。 やんわりとした灯りが見えてきました。その下には梯子が照らし出され…… 「おい!」 不意に、声がしました。少年達は辺りを見渡します。 「ここだ、ここ!」 声がするのは足下でした。少年は自分の靴を見下ろします。 「靴が……しゃべってる。」 「靴じゃない!俺!俺が喋ってるの!つかお前が踏んでんの!足退かせよ!」 少年は足を持ち上げました。ぐっちょりした何かがへばり付いています。 「うぇぇ……」 「靴を擦りつけるな!失敬な奴だな!」 ぐっちょりした物体は、こほんと咳払い(らしきもの)をしました。 「グケッグケッ!はえみつを持っているから仲間かと思ったが、 どうやら普通の奴!そんな普通の奴は俺の敵だ!」 「普通の人みんなを敵視してるんじゃ、友達いないんだろうね……。」 「なんだその憐憫の眼差しは!お前、俺を嘗めてんのか!」 ぐっちょりした物体は、きーきーと怒りました。 少年の肩を、ジェフが宥めるように叩きます。 「煽るな。多分これ、敵なんだろ。」 ぐっちょりした物体は、その言葉を待っていたかのように、表情をきりりとさせました。 「そうだ!お前達なんかここで捻り潰してくれる!俺の名は………オエップ。」 ぐっちょりした物体は、げっぷをしました。 「いやぁ〜……汚いわね!」 「今のは名乗っただけなんだが……。」 「レディーの前でゲップなんてマナー違反よ。ネス!ジェフ!やっちゃいましょう!」 ポーラはフライパンを掲げました。 「……。」 「うっかりゲップしたら、あの世行きらしいぜ。」 少年二人は戦慄しながら、各々の武器を構えました。 「たぁああっ!」 ばきいいっ!少年のバットがオエップに命中します。 「くっ……ぐぇっぷ。これでも……ぐげっふ……くらいやがれぇえええ!!!」 オエップは負けじと粘液を吐きかけました。 「うぁぁ……」 ジェフの身体は固まってしまいました。 「行くわよ、PKフリーズ!」 ここきぃぃん!氷の嵐がオエップを襲います。残念ながら、あまり効いていないようです。 「へへっ……げふっ……甘いんだよぉお!!!……おえっぷ」 「いちいち汚いわねアンタ!ゲップしないで喋れないわけ!?」 「……お嬢さん、それは俺にとっちゃ最高の誉め言葉よ……ぐえっふ。」 オエップは臭い息を吐きかけました。少年達は涙が止まらなくなります。 漸く動けるようになったジェフは、目を拭いながら舌打ちしました。 「くそっ……硫化アリルか……」 「え?何それ?俺しらないけど……?」 「問答無用。いくぞ!」 ジェフはショックガンを掲げました。その時、ひんやりとした物が首筋を襲いました。 「へ……?」 振り返ると其処に、うすぼんやりとした笑顔。 「っっっ!!!!!」 ジェフの身体は固まってしまいました。 「さっきから何してるのよジェフ!」 「だっ……だって……これ……!」 「けけけ。そいつはミニユーレイだ。知らぬ間に取り憑かれたらしいな。……げふ。」 オエップが笑いました。ミニユーレイもけけけと笑いながら飛び回り、 ちょっかいを掛けてきます。 「鬱陶しいわね……えいっ!」 ポーラのフライパンは、ミニユーレイの身体をするりと通り抜けました。 「馬鹿め、幽体に触れられるわけがな……」 「PKズバン!」 びしゃぁあああん! 「ちょっと……げぷ、それ……げふっ……卑怯なんじゃないの……?」 「戦の最中に余所を見る、それ即ち、命を捨てる所業なり。……ってパパが言ってた。」 「ネスのパパって何者!?」 動けるようになったジェフが、全力で叫びます。 「これは、思った以上に面倒な相手ね。」 「うん……。体力より気持ちが萎えるよね……。」 「………。ちょっと待って。」 不意にジェフが押し黙りました。眼鏡にすっと手を当て、オエップをじっと見つめます。 「わかったよ。」 「何が……?」 「僕はこれでも科学を学んでるんだ。物体の持つ性質は、道具無しでもある程度分かる。」 その言葉に、少年とポーラは目をまん丸くしました。 「おぉおっ〜!!!」 「すごいじゃない!!!」 「二人とも……誉めてくれるのは嬉しいんだけど、あからさまに『意外』って顔すんの やめてくれよ……。僕が役に立つ状況がそんなに意外か?」 「考え過ぎよ。で?弱点とかもわかるの?」 「ああ。あの質感、呼気、戦闘の手法からして、恐らく熱に弱いはずだ。炎や稲妻の……。」 「PKファイアー!PKサンダー!」 「PKズバン!」 ごごごぉおおおばりばりばりずばばばばばぁあああん!!! 「………。っぷ。」 二人の連撃に、オエップは小さなゲップを残して力尽きました。 「よ、容赦ないな……。」 黒い焦げになったオエップは、健気に顔を上げます。 「せめてお前の持っているはえみつを嘗めてから負けたかったなぁ……。」 「いいよ。あげる。」 少年はあっさり瓶の蓋をあけました。オエップはきょとんとします。 「え?いいの?お前……意外と良い奴だな。」 「だってこれ臭いし、へらしたい。」 「……。ま、まぁなんでもいいや。ありがたく。」 一頻りはえみつを嘗めた後、オエップは満足げにゲップしようとして…… ポーラに睨まれて口をとじました。 「いや〜、ご馳走さん。俺とかゲップー様は、はえみつが大好きなんだ♪」 「ゲップー……?」 何処かで聞いたような気がします。 「ゲップー様は強いぜ〜。俺のゲップの比じゃねぇ。ま、精々気を付けるこったな。」 オエップはのたのたと去っていきました。 くらい抜け穴を出ると、明るい日差しが差し込んできました。 スリークは常に薄暗いので、ひさびさに日差しを浴びた気がします。 「あ、坊や達。」 突然、見知らぬおじさんが声を掛けてきました。 「いろいろ大変だったろう。おじさん食べ物を持っているよ。売ってあげよう。」 「………。」 突然声を掛けてくるだけでも怪しいのに、突然の商売。 少年達は疑惑の眼差しで首を振りました。 「ああ、そう……またよろしくね。」 おじさんは残念そうに言いました。 「あ、そうそう。この先に面白い人たちの村があるから、訪ねてみるとイイ。 その村はサターンバレーというらしいけど、地図には載ってないんだよ。」 「ふぅん……。おじさん……帰れないの?」 少年のぽつりと言った一言に、おじさんの顔が劇画みたいになりました。 「ち、違うよ!まさか奥さんと喧嘩してこんな所まで逃げてきた訳ないじゃないか! 着の身着のまま飛び出してきたからお金もないし!親切なサターンバレーの人に 泊めて貰って雨露を凌いだけど、もう帰りの電車賃もないなんてそんなことは無いぞ!」 「………。」 少年は気の毒そうな顔で、財布を取り出しました。 「コーヒー買います。いくらですか?」 がしっ!うるうるうる。 おじさんは心底救われたという表情で、少年の手を握りました。 「ここ、かしら……?」 おじさんが言っていた、サターンバレーという村。どうやらこの洞窟の先のようです。 「どうする?行ってみるの?」 「行こうよ、これを何とかしてほしい。腹立つ。」 ジェフは、歌いながら頭をぽかぽか殴り続けているミニユーレイを指さして言いました。 少年達は洞窟の奥へと入っていきました。割合明るい洞窟です。 少年はぼんやりと呟きました。 「でもさぁ、不吉な名前だよね。サターンバレー。『悪魔の谷』だよ?」 「それは『サタン』だろ?サターンは『土星』。」 「どせいだに?それはそれで不思議な名前よね。何があるのかし……あら?」 ポーラが足を止めました。 「どうしたの?」 「う、ううん……なんでもないの……。」 そして再び歩き出します。少年達は首を傾げ、後に続きます。 暫く歩くと、またポーラが足を止めました。 「ねぇ、ポーラ。一体どうし……」 「いるわ。」 ポーラは振り返らずに、きっぱりと言いました。 「いるって、何が?」 「アレが、よ。」 「アレって何?」 「……口に出すのも嫌。……この洞窟には、アレの気配が………っ!!!!」 それは、言葉にならない悲鳴でした。彼女が指さす先には、茶色の物体。 小指ほどの大きさしかないそれは、ぶーんと飛んで…… へちょりと、ジェフの顔に貼り付きました。 「う………ぎゃあああああぁああああああぁぁああああ!!!!!!」 ああ何故、これほど小さな昆虫が恐ろしいのか。 ジェフは此の世の物とは思えない悲鳴を上げました。台所害虫、通称、イニシャルG。 「ジェフ!今取って上げるわ!えい!」 ぱいんっ! ポーラの一撃は、ジェフの顔面に見事に命中しました。 「殺す気か!」 ジェフはおでこにたんこぶを作って叫びます。アレはぶーんと飛び去り、 空中旋回してにやりと笑いました。(そんな気がしました。) そして少年目掛けて真っ直ぐに突き進み……… ぷちり。 少年のバットは、見事にアレを捕らえました。きゅっきゅとティッシュでバットを拭い、 リュックにしまうと、少年は二人に向き直りました。 「さ、行こうか。」 それは弾けるような笑顔でした。二人は怖々それに続きます。 「ネ、ネス……?君、アレが平気なの……?」 「う〜ん、勿論嫌いだけど、虫は虫だし……。お婆ちゃんなんか、手で捕まえて 千切ってトイレに流しちゃったよ?」 「お婆ちゃん格好良すぎるわよ!」 洞窟を進む少年達の耳には、間の抜けた音楽が聞こえ始めていました。 ![]() つづき→ |