『どせいさんとどせいさん』


「ぼくらはいつも げんきですけど こんにちは。」
…………。
「あ、どうもこんにちは。此処が『サターンバレー』ですか?
 僕ら、ちょっと休憩がしたいんだけ……」
「待て、ネス、そのままさらりと流す気か!!!!!!?」
ジェフの悲痛なまでの叫びに、少年はゆるりと振り返ります。
「流すって……何を?」
「目の前の生命体をだ!!!!!」
ジェフはびしりと、「その人」を指さしました。
人……なのでしょうか?
膝くらいの体長。つるんとした肌。大きくてまん丸い鼻。つぶらな瞳。
胴体は無く、顔から直接生えた足。……「手」かもしれません。
猫のような三本髭に、頭からちょろりと生えた毛には、紅いリボン。
兎に角、謎が服着て歩いている(……いや、服は着ていないのですが)ような
その生命体は、どこか和ませる雰囲気を持っていました。
「じぶんは どせいさんと いうものですよ。」
その生命体……「どせいさん」は自己紹介をしました。
「ここはみんな どせいさんなんです。」
確かに、見渡してみれば、似たようなのが一杯居ます。
ジェフはショックガンを取り出しました。
「お前も、ゲップーとか言う奴の手下か?」
どせいさんは、小さな目をぱちくりさせて言いました。
「ぽえ〜ん。」
「いや……あの……」
なんと返せばいいものやら。どせいさんは溜息とも鳴き声ともつかぬ声を発しました。
「なんかもっふりしてて可愛いじゃないの〜♪」
ポーラはどせいさんを一人捕まえて、ぎうっと抱きしめました。
そのぬいぐるみのような出で立ちには、乙女心を擽る物があるようです。
「ポーラ!そんな訳分からないものに触っちゃ危ないって!」
「大丈夫だよ。」
少年の声に、ジェフは振り向きました。
「……。ネス……何を、頭に載せてるの……?」
「どせいさん。」
「ぷぅ〜。」
「だから……そんな得体の知れない物に、軽々しく近づくなよ。」
「得体の知れないものじゃないよ。もう自己紹介してくれたもん。」
「じぶんは どせいさんというものです。」
「名前を聞いて居るんじゃない!お前は一体何なんだよ!?」
「ジェフもしつこいなぁ〜。どせいさんだって言ってるのに。ねぇ?」
「ぽえ〜ん。」
「ほら。あ、どっかに買い物できるトコない?」
「ぷぅ〜。」
「あ、あっちか。ありがと。」
「いえいえ。」
「何故既に一体感のようなものがぁああああ!!!!?おかしいのは僕か!?僕の方なのか!?」
頭を掻きむしるジェフを余所に、
少年とポーラはサターンバレーを意気揚々と歩き出しました。



「からだをなおす どせいさんです。からだ なおされますか?」
部屋の中には、椰子の木らしき物体が2本。
どうみてもポリバケツとしか思えぬ物にすっぽり収まり
大きな鼻を突き出したどせいさんは言いました。
「はい。」
きょろろろろぉ〜ん
何処からともなく流れる癒しの音。少年達はすっかり元気になり、
ジェフの身体に取り憑いていたミニユーレイも消え失せました。
「なおったなおった。よかったー」
「ありがとう。凄いね、どせいさん!」
「……。」
「ジェフ?なんかまだ釈然としない顔してるわね。」
「当たり前だろ!!!!」
ポーラは溜息をつきます。
「いい加減大人になりなさいよ。何よ、胴体がないくらい。個性だと思えばイイじゃない。」
「個性にも限度ってもんがあるだろ……。」
ジェフの心労が現れているのか、眼鏡も何処か曇って見えます。
「ネスを見習いなさいよ。まるで住人よ?」
「うん。僕、前世はどせいさんだったのかも。なんか、此処、落ち着く。」
「どうでもいいけど、ネスはそれを頭からどかせ。馴染みすぎなんだよ。」
「ぷう〜……」
少年は不満げに口を尖らせてから、どせいさんを降ろしました。
ジェフは咳払いをして、どせいさんに向き直ります。
「あの……此処って、どせいさん…?しか住んでないの?」
どせいさんはこっくりと頷いた……ように見えました。
何せ胴体がないので、よく分からないのです。
「むかしはぼくら いっぱいいたのに……のに。まいにちだんだん へってるらしい。
 どうしてだろ? ? ぷー。あらあら。」

「………………。駄目だぁぁぁぁぁ……。」
ジェフは何やらとても疲れるのか、顔を覆ってしゃがみ込みました。
少年はどせいさんの顔を覗き込んで、首を傾げます。
「減ってるって……どうしてだろうね?」
「さぁね……。合体や分裂でもしてるんじゃないの。そうだとしても、
 僕全然驚かないよ……。」
「凄いなぁ。どせいさんって、もしかして忍者?」
「こんな鈍足忍者居てたまるか!」
「どせいさんは けっこう しゅんびんですよ?」
「それはそれで怖い!」
憔悴したジェフの肩を、ポーラが宥めるように叩きました。
「兎に角、聞き込みしてみましょう。どせいさん達なら、ゲップーとか言う奴等のこと、
 知ってるかも知れないわ。」

どせいさんの村は、あちこち梯子や洞窟で繋がっていました。
「あ、そこ、梯子上って。次は右ね。」
少年が言いました。一行はそれに従います。何故始めてきた場所案内できるのでしょう?
「この洞窟は、サターンバレーの自由が丘なんだって。凄いね〜。」
「ぷぅ〜。」
「うんうん、高級住宅地って感じ、醸し出されてるよ。」
「ネス、リュックに一匹詰めてくるんじゃない!やけに詳しいと思ったら……」
「よっぽど気に入ったのね。」
広いスペースのぽっかりと空いた洞窟の中。沢山のどせいさんが、
「ぽえ〜ん」「あらあら」「ぷぅ〜」と井戸端会議をしています。
その内、一人のどせいさんが、もこもこと近づいてきました。
「あなた わたし すこしにている」
「え、僕?」
「やだ、どせいさん。口説いてるの?」
「断じて似てない!」
少年達は、三者三様の反応をしました。どせいさんは聞いているのかいないのか、
大きな鼻をもふもふさせながら言いました。
「たからもの やります。だから。かえりにやるので いまやらない。またなー!」
そしてどせいさんは、またもこもこと去っていきました。
「親切……なのかしら?」
「帰りって……なんの帰り?」
「揃って僕に聞くな。」
去りゆくどせいさんのリボンが、みょこみょこと揺れました。

「380どるあったら うらかんぽー かえるのになー。
 1780どるあったら いのちのつのぶえ かえるのになー。」

「買えってか!?」
「ぐれーぷふるーつのたきには こわいやつ…
 こわいぞう!こわくてぴー きもちわるい。」

「ピーって何だよ!?」
「いくと ららら こわいよう。」
「唄うほど楽しいのか、怖いのかどっちなんだ!?」
「ジェフ……疲れないの?」
「疲れるよ!」
少年の言葉に、ジェフはゼイゼイと息をしながら振り返りました。
「何よ、自分はうUFOに乗ってきたくせに。これくらいの不思議で騒ぐんじゃないの。」
「ぐっ……」
ポーラの的確な指摘。ジェフは言葉に詰まり、ちょっと大人しくなりました。
「まぁ、ネスみたいに、馴染みすぎても困るけどね……。」
ポーラの視線の先には、どせいさんと語らう少年の姿。
「やっぱりどせいさんもドット絵派?」
「ぽえ〜ん。」
「だよね〜。滑らかな線で迫力有る映像ってのもいいんだけど、
 こう愛嬌のあるドット絵から、壮大な物語を想像していくところに醍醐味が……」
相当コアな会話をしているようです。
「ネス、私達はのんびりしていられないのよ?
 ニンテンドーについて熱く語る前に、やるべき事をしなさい。」
「「ぷぅ〜……」」
「声を揃えない!無駄話してる暇があったら……」
「無駄じゃないよ。」
少年の傍から、ひとりのどせいさんがもっそりと歩み出ました。
「ひみつきち ある。ぐれぷふるつの たきのところ。あいことばしってる わし。」
「儂!?」
「ジェフ、いちいちツッコミいれないの。キリがないから。」
どせいさんは言葉を続けます。
「げっぷーのこぶん あいことばをいえ という。
 そしたらそのまま 3ぷんまつんだ。」

「ゲップーの……子分?」
「どうやら、行き先は決まったみたいね。」
「うん。目指すは、ぐれぷふるつのたきのところだ!」
「グレープフルーツの滝、ね。」
ジェフが丁寧に訂正しました。



「ともだちたくさん たきのむこうへ さらわれた。
 どうしてさらう。 ぶー!ぶー!」

「すりーくのまちに ぞんびはこんでる ぼくはみた。
 たきもむこう わるいやつだ ぽえ〜ん。」

どせいさん達の情報から察するに、滝の向こうにアジトがあるのは明白。
少年達は、グレープフルーツの滝へとやって来ました。想像以上に大きな滝でした。
水飛沫がしぱしぱと飛んできて、悪のアジトとは思えぬ爽やかな雰囲気を纏っています。
「カモン!マイナスイオン〜!」
「ネス、遊んでないで行くよ。」
少年達はどせいさんに教わった秘密基地を目指し、滝の裏側へと降りていこうとしました。
「…?どうしたの?ネス、なんで止まるのよ。」
先頭を歩く少年は、足を止め、じっと息を詰めています。そして……
「…………来る。」
「来るって何………ぎゃあああああ!!!!!」
ずざしゅぅううううう……
ジェフの顔面すれすれを通って、回転し、めり込むように着地した物体。それは、
「撮るのも早い、駆けつけるのも早い!天才写真家で〜す♪」
「またお前かーーっ!!!!!」
写真屋のおじさんでした。軽快なメロディーが、今日も流れています。
「降ってくるなら先に言え!あと少しで鼻持って行かれるところだったんだぞ!」
「もう慣れたわ。」
「不意打ちぐらい避けられないようじゃ、真の戦士にはなれないんだよ?」
「カモン……常識有る日常……」
「ハ〜イ、チーズサンドイッチ!」
ピースサインの少年とポーラ、項垂れるジェフの姿は、
きっちりと写真に収まりました。

闇の中、見えるのは滝を通して微かに差し込む光だけ。じめっとした空気。
滝の裏側は、表側と真逆の雰囲気でした。
「なんか……よく見えないね。」
「いや!何か踏んだ!気持ち悪い……」
「それ、僕の足だから。」
少年達は、手探りで進んでいきます。
どん。
「わ!」
何かにぶつかりました。生暖かい、何か。それは、もぞりと動きました。そして
「あいことばを いえ!」




























(ネス……)
(しーっ!何も言っちゃいけないんだって。)
(本当に……このまま三分待つのか?)
(確かに……退屈だよね……。ジェスチャーで会話するのって、限度有るし。)
(筆談するには、ちょっと暗いしな。)





































(「誰かに取られる……くらいなら……あなたを……」)
(……?)
(……。)
(「寝乱れて……隠れ宿……九十九折り……浄蓮の滝……」)
(……♪)
(……。)
(「何があっても……もういいの……くらくら燃える火を潜り……」)
(……ポーラ。)
(何?ジェフ。)
(ちょっと……静かにして。)
(私、何も言ってないわよ?)
(口に出さなくても、テレパシーで伝わってくるんだよ。)
(だって、三分って意外と長くて暇なんだもの。いいじゃない、鼻歌ぐらい。)
(脳内カラオケ大会〜!)
(ほら、ネスも乗り気よ?)
(鼻歌にしたってもうちょっと選んでよ……なんで天城越え?僕ら……子供だよ?)
(女の情念を唄った名作よ。)
(ねぇねぇジェフ、「かくれやど」って何?)
(知らないよ……)
(じゃあ「ねみだれて」って……何?)
(僕に聞くな!あぁぁ〜もう!)


「よし、入れ。」
ようやく見張りのお許しが出て、少年達はアジトの中へと入っていきました。




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