『大泥棒とタコ』


――ネス。
(誰……?)
――ネス。きこえますか?私はポーラです。
(ポーラ……!やっぱり君はポーラだったんだ。)
――ネス。助けて。助けにきて。
(え!?)
――ここがどこかわからない。でも、水の音が聞こえる。
(水の……音?)
――どうか……ネス。お願い……。
「ポーラ!!」
少年は飛び起きました。ツーソンのホテル。辺りは真夜中で、静まりかえっています。
勿論、誰の声も聞こえません。でも少年は夢の中で、確かに少女の声を聞きました。
「ゆ、誘拐……?」
少年は窓の外へ目を向けました。
「水の音がする所って、どこだろう……?」

「あ、ネスかい?お前の口座にまた振り込んでおいたからね。」
「うん、いつもありがと。」
少年はホテルの電話でパパに電話していました。
「自由に引き出して使いなさい。じゃあおやすみ……」
「いや、おやすみってパパ、今、朝だよ?」
「あれ?そうだっけ?パパ時差ぼけが激しくてなぁ、そっちは朝なのかぁ。」
少年はパパの反応を不思議に思い、ちょっと耳を澄ませてみました。
会社にいるのか、パパの後から忙しそうな音が聞こえてきます。
「すぐ!今すぐにだ!早く手配しろ!さもないと、あの砦は陥落するぞ!」
「くっそ……啄木鳥戦法とは予想を超えていた。かまわん!撃て撃て〜!」
「報告します。二番隊が西の砦を奪還しました。」
「よぉし、風向きが変わり始めたぞ。強行突破だ!」
(…………。)
「パパって……どんな仕事してるの?」
「うん?簡単に言うと……世界を救う仕事かな。ネスと同じさ!はっはっは!」
少年の疑問は、益々深くなりました。
「お前もママに似て頑張り屋だなぁ。無理するなよ。」
ガチャン。ツーツーツー。
(……。まぁ、いっか。)
少年は深く考えないことにしました。
一刻も早く、ポーラを探しに行かなければならないのですから。

「ポォォォォラァァァァ!!!おやつの時間だよぉぉぉ!!戻っておいでぇぇぇ!!!」
「……。」
外に出ると、ポーラのパパがばびゅんと通り過ぎていきました。
「お、おや!?ネス君じゃないか!」
砂埃を舞上げて停止し、ポーラのパパは方向転換して少年の元へやって来ました。
「ポーラ、まだ戻ってこないんですか?」
「そうなんだよぉぉ〜!昨日から帰ってこないんだ!私の睨んだところによると、
 ヌスット広場のトンチキが怪しいんだ。」
「ぬ、ヌス?トン?」
「ああぁぁぁああポォラァァァア!!!」
ポーラのパパは、またもの凄い勢いで疾走していって仕舞いました。
(元気な人だなぁ。それにしても……ヌスット広場かぁ。)
少年は地図を広げました。
ヌスット広場。気になってはいましたが、敢えて避けていました。
なんてったって名前が「ヌスット広場」です。
これで善人がだらけなら、JASに引っ掛かるというものです。
(行くだけ行ってみようかな。)
少年は自転車に乗りました。

「生み立て卵はいらんかね〜!」
「料理に欠かせない、味付け小物は如何ですか〜?」
「焼きたてパンで〜す。露店だから虫とか付いてますけど、その辺が露店なんですよ〜」
(普通だ。)
ヌスット広場という割に、どうも普通の市場のようです。
少年はお店の人に聞いてみました。
「あのぉ、すみません。トンチキさんって知ってますか?」
お店の人は、はっと目を見開きました。
「トンチキさんを知らないのかい!?トンチキさんはこのヌスット広場のボスだよ。
 誰かが攫われた、何かが盗まれたって話には、大抵あの人が絡んでるんだ。
 それはそれはおっそろしいお人だぜ。」
「おっそろしい……」
いよいよ持って怪しいです。少年はトンチキさんの居場所を聞き、
ヌスット広場のさらに奥へと進んでいきました。すると…
「だぁあ〜はっはっは、はぁ〜!!!」
どでかい笑い声が降ってきました。声のする方を見てみると、
屋根の上に人がいるではありませんか。
派手なシャツに熊のような髭。丸いサングラスと、緑の帽子。
ずんぐりとした大きなおじさんは、「とぅ!」と屋根から飛び降りました。
「少年、とりあえず話は俺様を倒してからだ!いくぞぉぉお!」
「は?え、ちょ!」
おじさんは襲いかかってきました。少年はスリングショットで応戦します。
大分扱いにも慣れてきました。おじさんのおでこに「びしびしっ!」と命中します。
「ぬぅぅ〜。これならばどうだぁあ!!」
なんとおじさんは噛みついてきました。
(こ、子供か……!?)
少年は慌てて跳び避けますが、ホントに熊みたいなおじさんです。
「えぇい、PKスバン!」
ずばぁぁぁん!!!おじさんは漸く大人しくなりました。
「むぅ、流石だなボウズ。さっき飛び降りたときに足をねんざしちまったせいだが、
 負けは負け。話してやろう。」
(大人って、どうしてこう潔悪いんだろう。)
おじさんは腕組みをしました。
「いかにも、俺はこのヌスット広場のボス、トンチキだ。
 お前が聞きたいのは、ポーラって女の子のことだろう。」
トンチキさんの言葉に、少年は目を見張りました。
「なんで知っているのかって顔だな。俺にはいろんな情報が入ってくるんだ。
 お前さんが俺を疑ってるのも知ってる。だがな、俺は小屋を貸してやっただけだ。
 あの子を攫ったのは、別の奴だぜ。」
「攫った……」
やっぱりポーラは攫われてしまったようです。
「デブの子供と、青い服の集団にな。ナントカ教の生け贄にするとか張り切ってたぜ。」
「い、生け贄!?」
少年は驚きました。これは益々急がなければなりません。
「もう殺されてるかも知れねぇ。早く助けに行ってやんな。」
「ば、場所は!?」
「街外れの森に、グレードフルデッドの滝ってのがある。その向こうには、
 ハッピーハッピー村っていう、妙ちきりんな村があるんだよ。
 奴等、その辺りから来たみたいだぜ。」
「ありがとう!」
少年は自転車に飛び乗りました。
「おぉっと、待ちな少年。」
少年はもどかしく思いながらも振り返りました。
「お前、名前は。」
「ネ、ネスだけど……。」
「ネス。そのポーラって女の子を救い出せたら、必ずまたここに来い。必ず、だぜ。」
理由が分からず不思議に思いましたが、少年は大きく頷いておきました。
そして自転車をこぎ出します。目指すはハッピーハッピー村です。



「なんだ……これ?」
グレードフルデッドの滝の少し手前。
何故かタコの形をした鉄の塊が、行く手を塞いでいました。
押しても引いても、びくともしません。
「………。PKズバン!」
ずばぁぁぁん!!!……。
タコはつるりんと傷一つ無く、相変わらずの間抜けな顔で立っています。
「宇宙人の考える事って、わかんない……。あ、そうだ!」
少年はリュックからある機械を取り出しました。
ここへ来る途中、オレンジキッドに貰った物です。
急いでいるからと言うのに、半ば押しつけられるように貰った機械。
「これは僕の最初で最初の発明です!グレオレマシーン!」
オレンジキッドはそう言っていました。きっと何かの役に立つでしょう。
「行け!グレオレマシーン!」
スイッチを入れると、グレオレマシーンはぎしぎしと動き出しました。そして……
「あ〜あ〜すばらしい〜我らがオレンジキッド様〜♪
 夢と希望を心に〜カンパを待ってる〜♪」
高らかに歌うと、ぴたりと止まりました。
少年が近づいてみると、
ちゅどどどどどん!!!ぼふずっ!!
爆発して壊れてしまいました。
「200ドル……返せ。」
眉間にぐうっと皺を寄せた少年とは対照的に、タコは何食わぬ顔で立っていました。

「どうすれば良いんだろう……。」
少年は、とぼとぼと元来た道を帰るしかありませんでした。
まさかタコに追い返されるとは。
ポーラのパパやママ、トンチキさんになんと言えばいいのでしょう。
「ぱぱっとタコを消す魔法とか、使える人居ないかなぁ。」
奇声を上げて寄ってきた「あるく芽」をスリングショットで吹っ飛ばしながら、
少年は溜息を付きました。その時です。
RRRRRR…
「え?あ?う?」
リュックから聞き覚えのない音がしました。
どうやらあの「じゅしんでんわ」が鳴っているようです。
少年は恐る恐る通話ボタンを押しました。
「あ、ネスさん?アップルキッドです。ブリリアントなアイテムが出来ました。
 広場にいますから、直ぐに取りに来てくださいね〜。」
ピッ。それだけ言うと、電話は切れてしまいました。
「ブリリアント……。」
少年はヌスット広場に向かいました。アップルキッドは直ぐに見つかりました。
少年の姿を見ると、アップルキッドはにんまりと笑いました。
「これぞ僕のスーパー発明品です!」
ばばん!アップルキッドが差し出したのは……タコの形をした機械でした。
「なに……これ?」
今一番見たくないタコが登場し、少年は眉を顰めました。
アップルキッドはふんぞり返ります。
「その名もタコ消しマシーンです!」
「たこけし…ま…?」
「タコの形をした物を消してしまう、それはそれは恐ろしいウェポンです!
 たこ焼き屋さんの前で使わないようにしてくださいね。」
少年はしげしげとその機械を眺めました。
確かに、たこ焼き屋さんにとっては恐ろしいウェポンでしょう。
「タコの形してる。」
「そこはそれ、存在という物は常に矛盾をはらんでいる物なのですよ。」
「難しいことはわかんないけど……」
少年はその機械を担ぎ、にっこりと笑いました。
「ホントに天才発明家だよ。」

カチ。ズゴォォォム……ボヒュ!
「おおぉ……。」
タコの形をした鉄の塊は、タコ消しマシーンのラッパみたいな吸い取り口に
吸い込まれるように消え失せました。
「……。」
少年はタコ消しマシーンの頭(っぽく見える部分)を撫でてから、
再びリュックにしまいました。
これで漸く、ハッピーハッピー村に行くことが出来ます。

ひとくちUFOはビームを発射しました。少年はひらりとかわし、
スリングショットを打ち返します。見事命中、UFOは破壊されました。
「つ、次から次へと……」
グレードフルデッドの滝付近には、訳の分からない敵がうじゃうじゃいました。
ビームを発射してくるUFOやクレーンみたいな機械。
あるく芽もうろうろしていて、次から次へと仲間を呼び寄せます。
少年が一息ついていると、目の前に黒い影が立ちふさがりました。
見上げるような巨木。あるく木、大ウッドーです。
「ああ、もう!」
少年はスリングショットを乱射しました。大ウッドーは薄笑いを浮かべながら、
(一応木でも顔はあるのです)枝をぶんぶん振るってきます。
「PKズバン!」
ずばぁぁぁん!!!少年の必殺技が命中すると、大ウッドーは動かなくなりました。
「はぁ……はぁ……もう……疲れ……」
突然!大ウッドーは燃え上がりました。
「わわ!熱!」
危うく丸焦げです。なんとか避けましたが、大ダメージです。
「なんて迷惑な奴……」
そこへ後から来たUFOに、ビームを発射されました。
くたびれてへたり込んでいた少年のお尻に、見事に命中します。
「………。」
踏んだり蹴ったりとは、まさにこのことです。
お尻はびりびりと痺れています。
「もぉぉぉ!!!」
少年はバットに持ち替え、UFOに跳びかかっていきました。

「はぎしょっ!!うぅ……寒い……」
さっきから、くしゃみと鼻水が止まりません。おまけに寒気もしてきました。
どうやらあのビームには、風邪にする効果があったようです。
(お尻から風邪ひいたなんて……格好悪い。)
少年は自分を奮い立たせながら、前へと進んでいきました。
熱も出てきたのか、足が猛烈にフラフラします。
「はぁ〜……ハッピーハッピー村なんてホントにあるん……」
草をかき分けていた少年の手が、ぴたりと止まりました。
村が見えました。ハッピーハッピー村です。
しかし少年が手を止めたのは、辿り着いた喜びからではありませんでした。
「なんだ……ここ。」
その村は――青に埋め尽くされていました。





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