『ご挨拶と粋な計らい』


すかこぉん。間の抜けた音。
「へ…?」
少年が振り返ると、盛大なたんこぶを作ったポーラがもの凄い剣幕で此方を見ていました。
「ば……馬鹿な……この私が……」
ぱったり。ポーラは悪の最後のような台詞を残して倒れてしまいました。
振り切ったバット。吹っ飛んだ敵はクルーン。機械のような形の、謎の宇宙人です。
そして、ポーラのたんこぶ。
「これはもしや……」
少年はつつと脂汗を流しました。
もしかしなくても、少年が吹っ飛ばした敵が、ポーラに直撃したのでしょう。
(あ、これ殺される。)
身の危険を感じながらも、少年は恐る恐るポーラに近寄りました。
「あ、あの……ポーラ?」
反応がありません。覗き込んでみると、ポーラの目は漫画のようにくるくる回っています。
どうやらHPが0になってしまったようです。すると――
「えいほ・えいほ・えいほ・えいほ……はい、止まって〜」
何処からともなく、おじさんの群れが現れました。
「ど、どちら様ですか……?」
「んん?恰好みてわかんないかなぁ?救急隊だよ、救急隊。
 あ、怪我人はこっちね。はい、どいてどいて。担架に乗せるよ〜」
おじさん達はテキパキとポーラを運び去っていきました。
「あ、あの……」
「大丈夫だよ〜、おじさん達プロだから〜。」
そしておじさん達は、えいほえいほと遠ざかっていきました。
後にはただ、ポカンとした少年だけが残されました。

少年はツーソンに帰ってきました。今日も良い天気。
寄ってくるあるくキノコやなんかを、軽快に吹っ飛ばしながら進みます。
順調な旅路……の筈ですが。
(さっきから……)
背後に視線を感じます。ぼんやりとした、それでいて酷く冷たい視線を。
そう、例えるなら、満面の笑みを浮かべた幽霊がずっと付いてきているような……。
(早いトコ、病院に行こう……)
さっきのおじさん達が本当に救急隊なら、ポーラは病院に居るはずです。
(新手の誘拐とかだったら……面倒くさいな。)
少年はげんなりとした表情で歩き出しました。
病院に行くには、ポーラスタ幼稚園の前も通らなければなりません。
なんとなく気まずいので、少年はそろそろと足音を殺します。
「お兄ちゃん!ポーラを助けに行くって言ってた人だよね!」
園児の一人に見つかってしまいました。とりあえず愛想笑いです。
「あ、ポーラ。おっと見間違えた。はははは!」
(!!!!)
園児はからからと笑いましたが、少年は汗がぶわりと噴き出すのを感じました。
(や、やっぱり怒ってる……のかな?)
じりじりとした背後の視線。その感覚が強まっていきます。
幼稚園から、別の園児も出てきました。
彼もまた少年の顔を見ると、追い打ちのように言いました。
「おっとポーラちゃん。おいらの目にはポーラちゃんが此処にいなさるように思えたが、
 幻を見たのかなぁ、ははは!」
なんだか演歌歌手みたいな口調の園児です。しかし少年の感覚は確信に変わりました。
(怒ってる…怒ってる……滅茶苦茶怒って見張ってる……)
少年は病院に向け、猛然と駆け出しました。

「どなたにご面会ですか?」
「あ……あの……ぽ……ポーラ……を……」
息も絶え絶えに少年は看護婦さんに告げました。
「ポーラさんなら先程運び込まれました。意識が戻らないんです。
 治療費を100ドルお支払いくだ……」
「払います!払いますから直ぐにでもお願いします!」
長引かせると、どんどん罪が重くなっていく気がします。
少年が引っ掴んだ100ドルを受付に置いたときでした。
「遅い!」
かこぉん……からららら。
何処からともなく飛んできた洗面器が、少年の側頭部に命中しました。
洗面器は空中できりもみして、少年の頭にヘルメットの如く収まります。
「ポーラ……大丈夫?」
火垂るの墓のような出で立ちになりつつ、少年は恐る恐る声を掛けました。
「あんなオモチャ如きに倒されるなんて油断してたわ。二度と遅れはとらない。
 次会ったときは容赦なく伸して、鉄屑にしてやるんだから!」
ポーラは鼻息も荒く宣言しました。特に大きな怪我もないようです。
視線を合わせないようにしながら、少年は小声で尋ねました。
「あ、あのさ……僕が吹き飛ばしたクルーンに当たったことは覚えてない……?」
「クルーンが、何?」
「良い!覚えてないなら良いんだ!」
ぶんぶんと首を振ると、ポーラは訝しげに首を傾げました。

幼稚園に着くと、少年は園児達の大歓声に迎えられました。
「ポーラを助けてくれて有り難う!にくい人!」
「ヤッホー!やっぱりポーラを助けてくれたのね!」
ハイテンションに迎えてくれたのは、やっぱりポーラのママでした。
「は、はぁ……どうも……」
さっきのことが有るので、少年はやや複雑な心境です。
「ちょ、ママ……恥ずかしいってば……。」
ママにぎゅうっと抱きしめられ、ポーラは少年の方を気にしながら小さくなっています。
「パパにはもう会った?」
ポーラのママは顔を上げました。
「パパったら、ヌスット広場のトンチキさんを疑っていたことを、
 後悔して落ち込んでいたわ。」
そしてくすりと笑い、視線で奥の部屋へ入るよう促しました。
ポーラのパパの強烈な心配具合を思い出し、少年はドアの前で思わず躊躇しました。
「何をしてるの?早くパパに報告しましょ。」
「う、うん……でもさぁ……」
パパはポーラにもの凄い勢いで飛び付くでしょう。
何があったのかもの凄い勢いで訊くでしょう。
感謝されるだけなら兎も角、また勘違いされて怒鳴られたりするかも……
「もう!しゃきっとしなさいよね!先々のことを考えてよ。
 アナタがしっかりしてくれないと、パパは心配性なんだから!」
「うん、わかった……」
少年はゆっくりドアを開きました。
「……?ちょっと待って、ポーラ。先々のことって何……?」
「ぷぉぅぅるらぁあああああああああああああ!!!!!!!!」
ポーラを捜し回っていたのか、ポーラのパパは外から入ってきました。
それはもう大変な勢いで。パパの体当たりは、少年に見事命中しました。
思わぬ背後からの攻撃で、少年は眼前の壁と接吻しました。
「心配したんだよぉぅ!お〜いおいおい!」
古典的な鳴き声で縋り付き、ごりごりと顔面を押しつけるパパから、
ポーラはなんとか逃れました。
「は、鼻水かまないでってば!……パパ、攫われた私を、ネスが助けてくれたのよ。」
そこで漸くポーラのパパは、壁にめり込んでいる少年に気付きました。
「おぉ!ネス君!………君は我が家の壁紙が気になるのかい?」
「はぁ……落ち着いた色合いだなと思って……」
面倒になった少年は、適当に返事しておきました。
「有り難う!確かに君はポーラが夢で見た通りの、世界を救う少年なのかもしれないぞ!」
ポーラのパパは少年の手を取って、ぶんぶか上下に振りました。
腕関節が激しく痛いものの、なんだか誇らしい気分です。
ポーラも嬉しそうに微笑んでいます。そしてパパの肩に手を置き、言いました。
「だから言ったでしょう、パパ。私の力は、ネスと一緒に世界を救うために有るの。
 だから私……これからネスと一緒に、旅に出るわ。」
――長い、長い沈黙がありました。
「旅だとぉぉおおおおおおう!!!!!!!?」
ポーラのパパは笑顔から一転、抽象画みたいな表情で少年の肩をがっちり押さえました。
「それはアレかぁっ!?手に手を取って、津々浦々を渡り歩く『旅』のことかぁっ!!!?」
「いえ……あの……」
「他にどんな旅があるのよ?」
しれっと言うポーラに、パパのボルテージは益々上がりました。
少年をがくがくと揺さぶります。
「いかぁああああん!うら若き男女が旅行だなどと破廉恥千万!
 お前達はあいのりを見たことがないのかぁぁぁ!!!旅をすれば、なんやかんやあって
 そういう展開になるのは目に見えて居るんだぁぁぁぁあ!!!!」
「「そういう展開……?」」
少年とポーラはきょとんと顔を見合わせました。
「子供は子供らしく、ちゃんと手順を踏みなさい!まずは交換日記から……」
「だってパパ、私達ここに帰ってくるまでに、もうホテルに泊まって来たのよ?」
パパの動きが、ぴたりと止まりました。
「ほぉてぇるぅにぃ泊まっただぁぁとぅぅ〜?」
ごごごごご……。パパの背後に闘気が立ち上ります。
「あ、あの体力回復のために……セマイケンド牧場にその……
 ポーラぁ!なんで誤解を深めようとするんだよぉっ!」
「私は事実を述べてるだけよ?」
なんだか収拾がつかなくなりそうなその時でした。
「パパ。」
ポーラのママが、相変わらずの笑顔で入ってきました。
「大丈夫。この子達なら、何も心配いらないわ。」
のんびりした、それでいてきっぱりとした有無を言わさぬ声でした。
「で、でもママ!」
何か言いたげなパパに、ママはにっこりと笑いかけ、少年達に向き直りました。
「私にはよくわかんないけど、ポーラの不思議な力と貴方の勇気が合わされば、
 きっとどんなことにも立ち向かえると思うの。……ネス君、貴方は信頼できる。
 心配もない訳じゃないけど、喜んで娘を送り出すわ。」
少年はぽかんとポーラのママを見上げていました。
ポーラのママの言葉で、何か力が湧いてくるような気がしました。
少年はやがてぐっと口を引き結び、深く、深くお辞儀をしました。
「僕が、絶対に守ります。」
ポーラのママは、その言葉が出ることを知っていたかのように頷きました。
「信じて貰えるかわからないけど、僕は宇宙人に世界を救う少年だと言われました。
 正直僕も信じられない。本当だとしても、とても出来ると思えない。
 でも……僕には守りたい人が沢山いる。やらなくちゃいけない。」
自分の口から出ているのが不思議なほど、きっぱりしっかりとした声でした。
「その宇宙人は、僕の他に二人の少年と、一人の少女が力を貸してくれると言ったんです。
 だから……ポーラに力を貸して欲しい。僕はみんなも、ポーラも……」
少年は唖然としているパパの方も向き、もう一度言いました。
「絶対に、守ります。」
ポーラのパパは、への字口のまま黙っていました。
ポーラも黙って、その様子を見ていました。
「……ポーラ。」
少しの沈黙の後、パパが静かに言いました。
「ネス君の……力になってあげなさい。パパは喜んで、お前を旅に出すつもりだ。」
「パパ……」
絞り出すような、とても辛そうな声。でも、決然とした声でした。
「心配しないでね!私だけじゃなくて、ネスも付いてるし!
 多分、次のスリークの町で、もう一人の仲間にも会えるはずよ。
 みんなで力を合わせれば、どんなことにも負けないわ。だから……だから……」
ポーラはパパを見上げました。への字の結ばれた口が、ふるふると震えていました。
「鼻水を拭いて、笑って送って頂戴!」
微笑んだ彼女の目からも、小さな滴が落ちていきました。
「さらばポーラ!パパ泣いてなんかいないぞぉ〜いおいおいお〜ぉぉい!」
堪えきれなくなったパパは、崩れるように泣き出しました。それはもう凄い顔です。
涙と鼻水でぐしゃぐしゃのパパを、ママは慣れた様子で宥めました。
「ポーラ、旅に出るならコレを持っておゆき。ハンドメイドのバンドエイドよ。」
ポーラに手渡し、ママはにっこり笑いました。
「きっと貴方達なら、世界を救えるわ。」



「……とは言ったものの。」
少年はげんなりと後を振り返りました。
「見てよネス!このツボ定価1000ドルの所500ドルよ!これは買いよね!」
何故か財布を独占したポーラは、ヌスット広場で買い物をしまくっていました。
少年は深く溜息を付きます。残金も大分心許ないです。
「早くトンチキさんの所に行こうよ〜。君を助けたら来るように言われてるんだから。」
「もうちょっと良いじゃないの!あ、ねぇ、さっきコレ買ったの!」
少年の前に「でん」と置かれたのは、「道具屋」と書かれた看板でした。
「これは……?」
「わかんない!でも98ドルよ!安くない!?」
「高いよ。」
「ネスにはわからないの!?この哀愁迸る看板の美しさが…!一種の芸術よ!」
「哀愁って……。こんなもの一体なんの役に……」
「ふんぐぅ〜……ふんがぁ〜……道具屋って此処なのっ!?」
(………。)
顔を上げた途端、目の前にあったのは、滝のような汗を流したおばさんの顔でした。
ふしゅふしゅと鼻息が掛かります。少年は遠足で見たアメリカバイソンを思い出しました。
「道具屋の看板が見えたから寄ったんだけど、何を譲ってくれるのかしら!?」
少年ははっとして看板に視線を落としました。
どうやらこの看板には、お客さんを呼び寄せる力があるようです。
「えっと……今のは間違いというか……特に何を売ってたわけでは……」
「生活習慣病の巨体引き摺って来たんだからね!良い物譲ってくれるんでしょうねぇ〜っ!?」
(………。)
ここで間違いだ等と言えば、鼻息だけでは済まないでしょう。
少年は表情を凍り付かせたまま、青のりを差し出しました。
「青のりね、一ドルで買うわ。それで良い?」
「はい……」
「良かった〜!遠くから来た甲斐があったわ〜!!」
おばさんはふんふんと地面を蹴って勢いを付けると、猛牛の如く走り去っていきました。
(あの人は何故底まで青のりを欲していたのだろうか……?)
少年の素朴な疑問を余所に、ポーラは満足げに胸を張りました。
「良い買い物だったでしょう?」

「おぉボウズ!帰ってきたな!」
少年を見ると、トンチキさんはにかっと笑いました。
ポーラも少年の後からひょこりと顔を出しましたが、
トンチキさんの顔が怖かったのか、微かに身を竦めています。
「おぉ?この子が噂の超能力少女か!ほら、おいで〜。おじさんが煮干しあげよう。」
「う、うう……」
ポーラは益々少年の後に隠れました。少年は諭すように言います。
「ポーラ。確かに2,30人くらい手に掛けてそうに見えるかも知れないけど、
 この人は君の救出に手を貸してくれたイイ人だよ。煮干しも多分汚くないよ。」
「フォローありがとよボウズ……」
トンチキさんは何処か切なそうに呟きました。
「ま、何はともあれ救出おめでとさん!お前なら出来ると思ってたぜ……ネス。」
どっかりとソファーに腰を下ろし、がははと笑います。
少年は微笑んで向かいに腰を下ろしました。ポーラは煮干しを見つめていました。
「あの青むくれ共の宗教は、随分と大所帯だったってのに、物ともせずにぶっ潰した
 って聞いてるぜ。俺の見込んだとおり、お前は大した奴だ。」
なんだか誉められすぎてくすぐったいような気がしました。
少年は誤魔化すように、煮干しに手を伸ばします。
「そういえば……トンチキさん、最初から僕のこと知ってたよね?アレ、どうして?」
トンチキさんは意外な質問だとでも言うように目を丸くし、う〜んと天井を見ました。
ポーラは煮干しの山の中に、明らかに小魚ではない物を発見し、小さく悲鳴を上げました。
「俺にも正直なところよくわからねぇ。初対面の、お前に協力しなきゃならねぇ気がした。
 天のお告げって奴かもな。ひょっとして、実は俺も嬢ちゃんみてぇな魔法少女なのか?」
トンチキさんはまたがははと笑いました。
少年は華麗にスカートを翻して変身するトンチキさんを想像仕掛け、身震いしました。
「裏稼業に生きる俺にも、世のため人のための役割ってもんがある。
 お前に協力したことで、俺はそう思えたのよ。」
トンチキさんは眉毛をあげて、にかっと笑いました。
結局理由はよく分かりませんでしたが、なんだか嬉しい気がしました。
「ところでよぉボウズ。ものは相談なんだが………」
トンチキさんは身を乗り出し、少年の顔を下から覗き込みました。
「お前、俺の子分にならねぇか?」
(………。)
沈黙。話を聞いていなかったポーラが、きょとんとしています。
「がはははは!断るって顔に書いてあるな。」
極限まで引きつった少年の顔を見、トンチキさんは机を叩いて爆笑しました。
一体何が面白いのか、少年にはさっぱり分かりません。
ひとしきり笑い、「笑いすぎて腰が痛ぇ…」などとぼやきながら、
――トンチキさんは「どん」と、トランクを取り出しました。
「子分になったら渡そうと思った金だが、引っ込めるわけにもいかねぇ。
 このトランクはお前にやる。中に一万ドルの札束が入ってる。」
少年とポーラは目を丸くしました。トンチキさんがトランクを開けると、
目も眩むようなお金の束が其処にありました。
「良いことにでも悪いことにでも、思いっきり使ってくれ。
 返そうとしても無理だ、諦めて持っていきな!」
再びガチャリとトランクを閉め、トンチキさんは少年にそれを押しつけました。
少年達は、暫くぽかんとしていました。
「どうして……こんなに……いろいろ助けてくれるの?」
ポーラが絞り出すような声で言いました。トンチキさんはポーラの顔を覗き込み、
にかっと笑いました。クマが獲物を食べるときのような表情でしたが、
何故だか全然怖くありませんでした。
「それはな嬢ちゃん……俺ぁ嬉しいのよ。お前さん達に協力してやるっていう、
 役割が出来たことがな。変な金じゃねぇ。遠慮せずもっていきな。」
わしゃわしゃ頭を撫でた後、トンチキさんは背伸びして溜息を付きました。
「俺はオネットでライヤーホーランドって小悪党が掘り出した
 マニマニの悪魔とやらをいただきに出かけるつもりだ。縁があったらまた会おうぜ。」

ヌスット広場を後にして。
「ネス。」
「うん?」
「そのお金……どうするの?」
「う〜ん……」
「ネス。」
「うん?」
「一万ドルで、欲しいものってある?」
「う〜ん……」
「ネス。」
「うん?」
「アナタ、煮干し食べてたわよね。」
「うん。」
「あれ、イナゴが混じってたわ。」
「う〜ん………………えぇぇえっ!?」
「やっと正気に戻ったわね。」
ポーラはふぅと溜息を付きました。
「さっきからぼんやりしちゃって、ちっとも私の話聞いてないでしょ。
 貰っちゃった物は仕方ないんだから、しゃきっとしなさいよね!」
少年はぽりぽりと頬を掻きました。
「でもさぁ、こんなの持ってるだけで不安になるよ。
 街ゆく人全てが、お宝を狙う野獣たちに見えてくるもんなぁ……。」
「その発想の方が余程物騒よ。確かに持ってるのも不安ね。預けちゃいましょ。」
「え?銀行に?」
「子供がこんな大金持っていったら怪しまれるわ。ほら、妹の……トレーシーちゃん?
 エスカルゴ運送でアルバイトしてるんでしょう?」
「ああ……」
少年は、ママに電話をしたときに言われたことを思い出しました。
妹のトレーシーが、その齢にして預かり物サービスのアルバイトを始めたことを。
(我が家はそんなに火の車だったのかな……?)
本当はお兄ちゃんの役に立ちたいからとトレーシーが自主的に始めた物でしたが、
そんなこと知るよしもない少年は、今後の身の振り方を考えたりしました。
「とりあえず、電話してみましょうよ。」
RRRRRR…
「はい、エスカルゴ運送です!あ?お兄ちゃん?どんなご用件でしょうか〜?
 ……は〜い!係の者が直ぐ其方に参りま〜す♪」
トレーシーは淀みなく喋り、電話は直ぐに切れました。
「誰かさんよりしっかりしてるかもね。」
ポーラがくすくすと笑いました。





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