『等価交換と大都会』 じとぉっと、首を汗が伝っていきます。 「なんてたって、穴から出てくる風が違う!いいかぁ?穴ってのはな、その善し悪しは、 掘りはじめで分かんだよ。穴が空いたその瞬間に、そこから吹く風! その涼やかな事と言ったらもうアンタ!北極星さえその麗しさに輝きを失う……」 「……ふっ……ふふっ……穴談義なんか聞いてる余裕無いのよぉぉおお!!!」 「まぁまぁ。」 PKファイヤーの形に腕を構えたポーラを、少年とジェフが諫めました。 全校朝礼でもないのに、炎天下でずっと話を聞かされるのは、辛いものがあります。 砂漠を汗を拭きながら歩いている内に出くわしたのは、こぢんまりした発掘現場。 何を発掘しようとしているのかも分かりませんでしたが、ジェフが興味を持って、 うっかり話しかけたのが運の尽き。 穴掘りマニアのジョージ・モッチーさんに捕まって、 「穴のなんたるか」を語られる羽目になってしまいました。 少年達の説得の甲斐あって、ポーラは落ち着きを取り戻しましたが、 ふくれっ面で口を尖らせています。ジョージ・モッチーさんは「ん?」と首をかしげた後、 照れたように頭を掻きました。何か勘違いして喜んでいるようです。 「いやぁ〜、もともと人に頼まれてここで埋蔵金を掘り始めたんだけど… 途中から意地になってさ。なんとか見つけたいんだいね。」 「見つけるって、何を?」 少年が目をぱちくりさせると、ジョージ・モッチーさんはにんまり笑いました。 「勿論、金さ。」 「………きん?」 少年が聞き返すと、ジェフがこっちを見ました。 「金って、黄金のことですか?」 「他にどんな金があんだよぉ。ぺっかぺかに光る、あの金だよ。」 ジョージ・モッチーさんはがははと笑いました。 「へぇぇ……♪」 「ネス。」 ジェフは目を輝かせた少年の肩をぽんぽんと叩き、無言で首を振りました。 そしてショージ・モッチーさんを、気の毒そうに眺めます。 少年は意味が分からずぽかんとしていました。 「しっかし腹減ったな〜。なんか食い物分けてくんないかい?」 ジョージ・モッチーさんは、ちょっとぷよぷよしたお腹を叩きながら言いました。 少年が頷くと、ジョージ・モッチーさんは「お〜」と嬉しそうに笑って、 少年の頭をぐりぐり撫でました。 「いろいろ持ってるみてぇだけど、どれをくれるんだい?」 「う〜ん、じゃあ………これ!」 少年が差し出したのは…………………… ――塩でした。 「「………ネス。」」 「うん?」 ジェフとポーラは、少年をずるずると隅っこの方に引き摺っていき、小声で言いました。 「食べ物だよ。確かに食べ物だよ?けど……」 「塩って……貴方、塩って……。どんな嫌がらせなの……。」 「え〜?だって、いのちのうどんとか……勿体ないし。」 借金を抱えた家庭に育った少年は、こう見えて結構シビアです。 特に食べ物は、決して無駄にはしない主義なのです。 ジェフとポーラが、あきれかえって溜息を付いた時でした。 「ありがとね。」 「っ!!!!?」 ジョージ・モッチーさんは、にっこり笑ってそう言いました。 嫌みでも何でもない、本当に嬉しそうな顔で。 ちなみに塩の入っていた小瓶は、既に空っぽでした。もう食べてしまったようです。 唖然とするポーラたちを余所に、ジョージ・モッチーさんは、さらに言いました。 「金をめっけたら、全部アンタにやるからさ。」 言葉も出ないとは、まさにこのことでした。 「うん。穴掘り、頑張ってね。」 少年はにこやかに手を振りました。 「まぁ……確かに突然札束貰ったこともあるし、金をくれる人ってのも あり得るのかもしれないけど……。」 「その前に、あれだけの塩を一度に食べたら、塩分過剰摂取で死ぬぞ、普通……。」 ポーラとジェフは、まだ信じられないものを見る目で、 彼方に見えなくなった発掘現場を振り返りました。 「ねぇ、ジェフ。金って一万ドルとどっちが高いの?」 少年の素朴な疑問。ジェフは溜息を付き、諭すように言いました。 「一つの発掘現場から出る全ての金を貰えるんだったら…… ………家がディ○ニーランドにするくらいは余裕かもな。」 「おぉぉ〜!」 「ただ、あくまで「出たら」の話。この辺りの地質から言って、 金は愚か、他の鉱産資源だって出る可能性は低いよ。 分け前10割って言っても、ゼロの10割はゼロなんだから。」 「………ジェフ、夢がない。だから眼鏡キャラなんだよ。」 「眼鏡関係ないだろ。」 少年は口を尖らせていましたが、すぐに何かを見つけて目を輝かせました。 「トンネルだ!」 その言葉に、ポーラは思わず身構えます。 「何!?また、何かお化けの類が居るんじゃないでしょうね。」 しかし少年は、意気揚々とトンネルへ入っていきました。 「これを抜けたら、フォーサイド。大都会だよ大都会!ディスコ!カラオケ! 満員電車〜!やっほう〜♪」 「………満員電車に何を期待してるんだ?」 「全く、子どもね〜。」 ポーラたちは、それぞれに呆れを含んだ溜息を付いて、少年の後を追いました。 ![]() 見たこともないような、大きな三角の橋を渡ると、 そこは、大都会でした。 何処までも伸びていくような、真っ直ぐで角張った道路。 そこかしこを走っていく、格好イイ車。おしゃれな服を纏った人達。 見上げれば首が痛くなりそうな高層ビル群。 コンクリートジャングルと呼ばれたこの街。その瞳に憂いを秘めた、女が一人。 「マスター……なんか、もっと強いの頂戴。」 「あんまり飲み過ぎては、身体に障りますよ。」 「イイの!今日はとことん付き合って貰うんだから。絶対よ。今日は……一人は……嫌。」 「…………新作カクテル、オレンジショットになります。」 「あら、素敵なの出してくれたじゃない。これ、強いの?」 「ええ。あちらのお客様からです。」 「あちらの……?あ……貴方……」 「お客様は、お一人様では、無かったようですね。」 「マスター……私……まだ、やり直せる?」 「お客様なら、きっと。」 「本当にいい加減にしてくれないか。」 ジェフはこめかみをひくひくさせながら言いました。 フォーサイドの街の片隅にあるパン屋さん。 その食事コーナーで、少年たちはお昼ご飯を食べています。 「誰があちらのお客様だよ。何の真似だ、何の。」 「何のって……」 少年とポーラは顔を見合わせて言いました。 「「バーテンダーごっこ。」」 「恥ずかしいからやめてくれ!」 ジェフがテーブルをばいんと叩くと、他のお客さんの視線が集まりました。 咳払いしてから座り直し、小声で続けます。 「大体、何がオレンジショットだよ。ただのオレンジジュースだろ。 それと、無意味にテーブル滑らせるのも止めてくれ。零れてるから、思いっきり。」 「だって大都会だよ?なんか格好良いことしてみたくなるじゃない。」 少年は、顔に「わくわく」と書きたくなるような表情で言いました。 「君たちの大都会のイメージがどんなのだか理解しかねるんだけど……。 遊びに来た訳じゃないんだぞ。まず、情報を整理してみよう。」 ジェフはテーブルの上に手帳を取り出し、眺めながら眼鏡を少し上げました。 「もう一人の仲間の居場所。もしくは、次のパワースポット。 ここまで聞いてきた通行人からの情報を集めてみても、それらしいものはない。」 「ふむふむ。」 少年はじゅーとオレンジジュースを飲みながら頷きます。 「ただ、頻繁に聞いた名前。モノモッチ・モノトリー……どうも気になる。」 確かに、道行く人達はみんな、「モノモッチ・モノトリー」という人が どれほど素晴らしい商才を持っているかを語っていました。 「このフォーサイドの街も、モノモッチ・モノトリーさんが活躍をし始めてから 随分発展したよね。私は良かったと思うよ。」と。 しかし、いい話ばかりではありません。 「市民の安全よりもモノトリー様の安全を守るのが、へっへっへ、俺達の任務だよ。」 「モノトリーさんに関しては、悪い噂も随分聞くのよね。 悪魔と取引して、今の権力を譲り受けたとか……ね。」 「悪魔……」 少年が呟くと、ジェフは大きく頷きました。 「ネスも引っかかるものがあるだろ。ポーラを浚ったっていう連中。 黄金の悪魔の像を持ってたって言ってたよな。そいつらも急激に権力を得て、 ネスが親玉を倒すと、催眠から解けたようにみんな離れていった。」 少年の脳裏に、あの青ずくめの宗教のことが浮かびました。 確か、あの教祖の名前は……かーぺ………かー…… 「カーペット?なんだっけ?忘れちゃったなぁ……。」 少年はもんやり浮かぶおじさんの顔を、なんとか思い出そうと唸りました。 「兎に角、そのモノトリーに話を聞いてみよう。何か知ってる可能性は大きい。」 「え?あ、うん。そうだね。……ポーラぁ!行くよ〜!」 ポーラはいつの間にか、店の奥の方に移動していました。 隅っこにある非常口のような所を、しきりに覗いています。 「うん?何か美味しいものあった?」 「無いわよ。ねぇ、ネス。コンタクトの落とし主、フォーサイドのパン屋の二階 って書いてあったわよね?ほらここ、階段なの。このパン屋、二階があるって事よ。」 「………あ〜。」 砂漠で偶然拾ったコンタクト。そういえば、そんな看板があった気がします。 「行きましょ!金一封、金一封♪」 「ぐぇ。」 ポーラに襟首を引っ掴まれるようにして、少年は階段を駆け上がりました。 「今世の中には「ケチな奴が居るもんだ」ってことについて、考えてたトコなんです。」 「はぁ……。」 パン屋の二階にいた髭もじゃのおじさん、ペテネラ・ジョバンニさんは、 少年の手元を見て、目を丸くしました。 「えっ!おばあさんの形見のコンタクトレンズを届けに!? ありがとう、ありがとう!」 ジョバンニさんは、もじゃもじゃの髭を擦り付けんばかりに近付いて、 少年とがっちり握手をしました。なんだか香ばしいような酸っぱいような匂いがしました。 「僕の家計はものを大切にするんです。じゃ……早速何かお礼の品物を。」 「んもぉ〜お気を使わなくても良いのに〜。」 ポーラがずいっと身を乗り出しました。 (札束にはさほど食いつかなかったのに、女の子って「お礼」って響きが好きなのかなぁ?) 少年はぼんやりそんなことを考えながら、奥の方でごそごそ何かを探している ジョバンニさんの背中を見つめました。 「あったあった。まだ5年しか履いていない、僕の余所行きの靴下です。」 「「……。」」 絶句する少年たちの視線に気付き、ジョバンニさんは笑いながら肩を叩いてきました。 「なんだ。そりゃ冗談に決まって……」 「穴も空いてないし、こないだ洗濯してから一度しか履いてません。 ほんの少し匂うけど……大丈夫!です。遠慮無くどうぞ。」 (握り拳で言われても……) 靴下を持ったまま、少年は縋るようにポーラを見ました。 ポーラは既に、3メートルくらい離れた所にいました。 「お帰り。どうだっ………おい、ネス。今人の荷物に何入れたんだよ。」 少年は無言で、ジェフの鞄に「お礼の品」をねじ込みました。 「きっといつか、何かの役に立つから。」 「……?」 「さぁ、モノトリーさんって人に会いに行こうか。」 少年は扉を開けて、元気よく歩き出しました。 パン屋さんが、ありがとうございました〜と声を掛けています。 「行こうかって、ネスの奴、どこに向かうか分かってるのか? そう言えば、ポーラ。お礼の品って何だったん……。………うん?」 「………。」 「なんで、逃げるの?」 「だって…………匂いが…………」 「え?」 「ごめんなさい、先に行くわ。」 ぽかんとしているジェフの横をすり抜け、ポーラはたたたと少年の後を追いました。 「うわぁ……てっぺんが見えない。」 少年はモノトリービルを見上げて呟きました。 名前の通り、モノトリーさんの経営するビルのようですが、 街で一番高くて、上から下までなんとも凝ったデザインになっています。 中にはいると、商社マンらしきスーツの人々が、忙しく走り回っていました。 その一人に話しかけると、 「モノトリーさんの立派なオフィスで働く、私はエリートです。」 訊いてもいないのに言われてしまいました。 「ハローベビーフェイス。モノトリービルに何の御用?」 受付のお姉さんも、貼り付いたような不自然な笑顔で話しかけてきます。 「何となく……歓迎されてないみたい。」 ポーラは少年のリュックの端を握りながら、不安そうに言いました。 「オーナーが居るとしたら、おそらく最上階だ。急ごう。 いろいろ訊かれて、摘み出されたら手がかりが無くなる。」 ジェフに促され、3人はエレベーターに乗りました。 ビルの凝りようの割に、味気ないエレベーターの中には、 黒い制服を纏ったエレベーターガールのお姉さんが居ました。 機械のように固まった笑顔で、お姉さんはボタンを操作しながら言いました。 「このエレベーターはポーキー様専用で、47階まで直通です。」 「え?今、誰専用って……」 「後ろにくっついて、ヒップをじろじろ見ないでね。では、上へ参りま〜す。」 少年の言葉など耳に入らないかのように、お姉さんは手で上をします。 お姉さんの手の動きに合わせるように、エレベーターは上昇を始めました。 「47階でございます。」 ドアが開いて、目の前にあったのは…………岩でした。 正確には、岩のように「ごつい」顔でした。 サングラスにひげ面。多分、少年たちの足より太い腕。 広すぎる肩幅と筋肉で、着ているスーツはぱっつんぱっつんのおじさんが二人。 怖い顔でじろりと少年達を睨みました。 格好からすると、多分警備の人なのでしょうが………ツキノワグマぐらいなら 素手で倒せそうなオーラがあります。 ジェフが「うぅ……」と怯んでいるのが微かに聞こえました。 ポーラがぎゅっとシャツの袖を掴むのが分かりました。 大丈夫というようにその手を軽く叩いたものの、 背後でエレベーターのドアが閉まる音がすると、 なんだかとんでもない所に来てしまったような気がします。 おじさんたちは暫くじろじろこっち見た後、ふんと鼻を鳴らして、 適当にうろうろし始めました。 ここで立っていて仕方ありません。少年は、おじさんに声を掛けました。 「あの……」 「うぉおおおおおおお!!!!!!」 「おぉおっ!?」 「いやぁああああああああ!!!!」 「っ!!!!!」 おじさんがいきなり大声を出したので、少年はちょっとびっくりしました。 ポーラはもっとびっくりしたようで、思い切り悲鳴を上げています。 ジェフに至っては声も出ないようで、完全に固まっていました。 「ぉおおおおっ……とぉ。危ねぇぜ、殴り倒す所だった。」 おじさんは自分の腕をぱんぱんと叩きながら、なんだか物騒なことを言います。 もう一人のおじさんも近付いてきて、少年の肩を叩きました。 「君はポーキー様のお友達かな?遊びに来るのは良いけれど、 こんな所をうろうろしちゃいけないよ。怪しい奴と間違えて…… マシンガンで撃ち殺されてしまうことだってあるんだからね。」 「〜〜〜〜〜っ!!!!」 ポーラたちがこれでもかという位息をのんで、少年の肩をばしばし叩きました。 「おじさん……ドジっ子?」 「ドジで済むかぁあああああああああ!!!!し、失礼しましたっ!!!!」 ジェフが少年のリュックを引っ掴み、少年たちは手近なドアに駆け込みました。 本当はすぐにでも帰りたかったのですが、エレベーターを待つのが怖かったのです。 ぜぃはぁと息をしている二人を、少年はぽんぽんと肩を叩いて落ち着かせます。 「ネス……よくそんな冷静で居られるよな。」 「うんまぁ、マシンガンくらいならね。……火炎放射器よりはマシかなぁと。」 少年はポーラをちらりと見て、小声で呟きました。 「それよりここ、なんだろう?」 ドアを通ったものの、ここはまだ廊下なようで、立派なドアが二つ並んでいます。 「オフィスみたいだな。モノトリーが居るかも知れない。入ってみよう。」 少年たちは、扉を開きました。 「ウーララ?これはこれは、昔の貧しい友人の………」 ばたん。 一瞬目にした、真っ黄色の部屋と、脂の乗りすぎた姿に、少年は迷わずドアを閉めました。 するとすぐにドアが開き、さっきのごつい岩とそっくりのおじさんが、 むんずと腕を掴んで中に引きずり込みました。 「逃げるなよ、小僧。」 「えぇ〜……」 少年は心底嫌そうな顔をしながらも、ぽっちゃり系の「知り合い」の前に進み出ました。 すると、椅子の脇から同じようなごついおじさんが 「近寄るな小僧。」 と言いました。少年は、(どっちなんだ?)と思いましたが、何も言わないでおきました。 「あ……。」 ポーラが気付いたようで、その人物の顔を見つめています。 事情の分からないジェフは、様子を窺うように、彼等を見つめています。 ソファにふんぞり返ったその人物は、咳払いをして、気を取り直してから言いました。 「ウーララ?これはこれは、昔の貧しい友人の……えーと何てったかな?ぶたのけつ君?」 「人違いです。じゃ、帰ろうか二人とも。」 「違う!間違った!そうじゃなくてネス君!そうそうネス君だ!」 何故か必死に縋る人物を、少年はじとーっとした目で見返しました。 「人違いです。」 「あくまでそれで押し通す気!?ネスだろ!わかってんだよ! お前の行動なんか、ぜ〜んぶお見通しなんだからな!ビル入った時から 防犯カメラで見つけて、どんだけ待ってたと思ってんだよ!」 その言葉に、岩おじさん達が大きく一度頷きました。 少年はため息をつき、その人物に向き直ります。 漸く落ち着きを取り戻したようで、その人物はソファにふんぞり返りました。 「さてネス君。何をしに来たのかな?ん?物乞いでもしに来たのかなぁ〜? ウーララ?僕が誰か分からないのかな?ポーキーさんだよ、ポーキー!」 「………どちら様?」 「〜〜〜〜〜っ!!!!」 「ああっ!ポーキー坊ちゃま!」 ソファに突っ伏したポーキーに、岩おじさん達が慌てて声を掛けました。 「はいはい、御免御免。で、ポーキー。何してんの?」 少年は面倒くさそうにぽりぽりお腹を掻きながら言いました。 ポーキーは直ぐさま復活し、朗々と言います。 「今はモノモッチ・モノトリーのパートナーとして、政治や経済に関する アドバイスをしている生活さ。」 「政……」 隣でジェフが絶句しているのが分かりました。無理もありません。 どうみても子どものポーキーが、アドバイザーとして働いているというのですから。 でも少年は、(まぁポーキーならやりそうだな)と思いました。 ポーキーは相変わらずソファにふんぞり返ったままで続けます。 「みすぼらしい餓鬼共が、ミスター・モノトリーのことを嗅ぎ回って居るという 情報があったが………ネス!君だったのか!?」 (………わざとらしい。) 少年はポーキーの「びっくり顔」を見つめて、ため息をつきました。 「ここはお前みたいなチビ助の来られる所じゃない!僕の視界から消えろ!」 手をすぱっと横に振ってそう言うと、ポーキーは「決まった!」とでも言い足そうに、 満足げな顔で天井を見上げました。 「うん。じゃあ、帰る。」 岩おじさん達に連れられるように、少年は部屋を出て行きました。 「え。あ……も、もう帰るのかよ!」 「今、消えろって言ったじゃない。」 「もうちょっと抵抗とかなんとかしろよぉ〜。もっと訊きたいことあるだろぉ〜?」 「いいよ。忙しそうだから。」 ぱたん。 後には、ソファの上でポーズを決めるポーキーだけが、ぽつんと取り残されました。 「いいか、二度とポーキー坊ちゃまの前に姿を見せるんじゃねぇぜ。」 「はい。そうします。」 岩おじさん達の忠告を素直に聞き入れ、少年達はモノトリービルを後にしました。 「どうするのネス。これじゃモノトリーさんに話が聞けないじゃない。」 「あの太った子ども、君の知り合いだろ?何とかならないのか?」 「うん……あれは、何ともならない。」 少年達は、他に手がかりがないか、街の人たちに話を聞いてみることにしました。 でも、まさか再びあの名前を耳にするとは思っても見ませんでした。 「ツーソンから来たトンズラブラザーズってバンドは大人気だな。」 その言葉に、少年とポーラはあっと驚きの声を上げました。 ジェフも名前は知っていたようで、ふんふんと頷きます。 「あのバンド、今はこの街で活動してるのか。ネスたち、知り合いなんだろ?」 「うん。凄くいい人達だよ。」 「いい人って言うか……お人好しっていうか……ねぇ。」 少年とポーラは、苦笑しながら言いました。 「確かに、フォーサイドに行くと入ってたけど……なんか、嫌な予感がする。」 「予感?」 ジェフの言葉に、少年は大きく頷きます。 「トポロ劇場はいつも満員らしいよ。」 「トポロ劇場と言えばトンズラ・バンドより、ビーナスって新人が最高だね。」 街の人たちの話によると、どうやら、他にもいろいろなアーティストの登場する 「トポロ劇場」という所に、トンズラブラザーズは出演しているようです。 「行こう。」 少年は言いました。ポーラも大きく頷きます。 「え?なんで?」 ジェフだけがきょとんとしていました。 「行かなきゃならない気がする。」 少年は地図を広げ、トポロ劇場を探し始めました。 ![]() つづき→ |